第21話 さらに、告白再び

「千歳さん?」

「そっちは誰かいる?こっちは、わたし一人……」

「こっちも僕だけだよ」

「よかった」

「うん」


思考の中に浸かっていた僕は、急に現実に戻されて戸惑っていた。

「田中くん、ごめんね」

「えっ」

「全部田中くんの言う通り。ここへ来たがったのも、パパに内緒にしたのも、全部わたし。わたしが悪いのに、自分のイライラを田中くんにぶつけたりして」


僕は、千歳さんも思考の中に浸かっていたのだということを悟った。

そして、自分が悪いと結論付けたのだろう。先程まで僕にぶつけていた怒りや苛立ちはすっかり消えている様子だった。温泉は人に思考を与えるのだ。そして、人を素直にする。


「いいんだ。僕も言いたいことをそのまま言ったりして、子供だった。ごめん。」

「いいの。はっきり言ってくれたから、わたしも自分の悪いところに気付けた」

「千歳さんのパパには、僕からも謝る。だから明日の朝一番の電車で、一緒に千歳さんの家に行こう」

「ありがとう……」

パパのことを思い出したのか、千歳さんは涙声だった。


「千歳さん、もうひとついいかな」

「うん」

「僕は千歳さんと結婚したいと思ってる」

竹でできた塀の向こうからは、無言の返事が返ってきた。僕は続けた。


「僕は千歳さんが好きなんだ。何でこんなに好きなのか、自分でもよく分からない。でも、大好きだ。それに、正確に言うと結婚したいんじゃない。結婚するんだって思ってる。僕たちは運命の相手で、そうなることは決まっているように感じている。結論がわかっているなら、それが遅いか早いかでしかない。だったらすぐにでもした方がいい。パパのことは僕が明日、必ずなんとかする。僕は千歳さんを必ず幸せにする。一生かけて千歳さんを守るし、饅頭だっていくらでも食べる。結婚しよう」


温泉に頭まで浸かって頭がクリアになったからか、自分でも驚くほど流暢に話すことができた。これで全部、一つ残らず、僕の気持ちが伝わったことだろう。僕は自分の言葉に満足していた。


「いよ……」

「え?」

「こわいよ……」

「どうしたの?お化けでも出た?」

「田中くんが、怖いんだよおお!!!!」

「僕が!?嘘!?」


あまりの驚きに僕は思わず立ち上がった。

塀の向こうからもバシャリと同じ音がして、続いてピシャピシャと走る音。そして再び静寂が訪れた。

僕は訳がわからず、しばらく裸で湯の中に立っていた。

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