第6話 恋のライバル!?じゃないみたい

教室に荷物を取りに戻る途中、大柄な男が声をかけてきた。


「お前、千歳と付き合ってんの」


姿を見たことがある男だった。僕達と同じ授業をとっているからだ。

直接話したことは無かったが、背が高く恰幅が良いので、教室では目立つ。


「付き合って……ないけど」


もしかしてこいつも千歳さんを狙っているのか。それなら付き合っていると嘘をつくべきだと頭では考えていたが、なぜか僕は咄嗟に嘘がつけなかった。


「そっか。あいつはスゲー女だからさ、彼氏がいるなら話を聞いてみたかったんだ」


スゲーとはどういう意味だ。

何が面白いのか、千歳さんを影で笑っている奴らがいることは知っているが、こいつもその中の一人だろうか。


「俺、千歳と健康診断の時に話したんだよ。健康診断の日にたまたま休んだから、別の日に、ここからすぐそばの病院に行ったんだ。そしたら千歳もいてさ、千歳って目立つだろ、だからなんとなく大学ん中で見たことあったし、同じ学校だって分かってたから声かけたんだ。向こうも俺のこと、デカくて目立つから知ってるって言ってくれて、それで」


やっぱり、千歳さんを狙っているのか。学校外で話したことがあるという点で、僕より優位に立とうとしているんだ。


「俺、どうしても気になってさ、千歳に体重を聞いたんだよ。もうほんと、率直に。俺がこの身長で100キロくらいなんだけど、なかなかそれ以上にはならないんだ。かなり大食いの自覚もあるんだが、今以上には増えない。不思議なもんだよ。千歳は身長165センチくらいかな。それであの外見だと、どのくらいの体重なんだろうって、まあ、好奇心だな。多分答えてくれないだろうなと思いながら聞いたんだけど、間髪入れずに答えてくれたよ」


すると男は突然薄気味悪い裏声で言った。

「130キロよ」


130キロ……。それが千歳さんの重さなのか。

千歳さんの、重さ。僕は自然と、千歳さんにのしかかられる妄想をしていた。

千歳さんが僕の首に腕を絡めて、少しづつ僕の体に体重を預けてくる。僕はゆっくりとベッドに倒れ込んで、最終的にその全てを受け止めるのだ。

千歳さんとマットレスに挟まれる自分を想像すると、僕は。ああ、僕は今にも。


そんな幸福な考えをかき消すように、男の声は無神経に続く。

「千歳には太る才能があるんだ。あいつはマジスゲー」


もういいよ。わかった。自慢はもう沢山だ。

僕はペンションでお前よりずっと千歳さんと親密になるんだから。

しかし、僕の苛立ちに気づかない男はなおも続ける。


「俺、お前は一体何食ってんだって聞いたんだよ。そしたら人差し指をピンって立ててさ」


男はその通り指を立てると、また最悪の裏声を出した。

「栗よ!」


栗?何だ、栗って。


「でも、栗であんなに太れねえよな。彼氏だったら千歳の食生活をもっと詳しく知ってるだろうなって思ったんだけど、彼氏じゃないのか」

「ああ、うん……」

「これから付き合う気?」


付き合う気……。付き合う。付き合う?僕は何と答えたら良いのか分からなかった。


「よく、わからない」

「そっか。とにかくあいつは只者じゃねえよ。デート代は割り勘にすることだな」

じゃ、といって男は去っていった。

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