#031 閉ざされた開村④

「4人、いや、5人ですかね?」

「そんなところだろうな。しかし、これだけ証拠を残す暗部を使うとは……ミウラーの私兵も堕ちたものだな」


 薄雪に残る足跡。俺は師匠と共に、昨夜、村人と会っていた謎の人物(笑)の痕跡を確認する。


「魔法対策は……していないみたいですね。俺が探索系魔法も使える事、知らないのかな……」

「学園で披露したことはあるのか?」

「公式の場では、無いですね」

「だろうな」


 因みに、魔法には幾つも系統が存在するが、探索系は精霊魔法の分野であり、魔法学園では選択科目になっているので履修していなければ精霊魔法の使い手を調べる術は存在しない。そもそも、履修していたからと言って学生レベルでは実用性のある術は使えないものだが。


「しかし、流石に(ドルイドの)敷地内に入る素振りは無いですね」

「本来なら、陣営内に諜報員を潜伏させておいて、そこに情報を集めるものだが……。どうやら、心までミウラーに売り渡したバカは居ないようだな」

「楽観的な考えで物事を判断する気にはなれませんが、少なくとも……すこし前に2人ほど、居たのは確かですね」

「あぁ……いたな」


 どこで線引きするかは議論の余地があるだろうが、少なくとも、森に強力な魔物を誘いこんだり、村長を刺客に引き渡したりする行為は、完全な反逆と言っていいだろう。


 一応、例の冒険者は『野盗の奇襲に立ち向かい、村長を庇って名誉の死を遂げた』事にしてある。個人的には、2人に何の思い入れも無いので、『消息不明』で処理しても良いのだが……できるだけ領主にはコチラの戦力を把握されたくない事もあり、ギリギリまで直接的な反撃は控える予定だ。もちろん、直接森に暗部組織を送り込んでくるような事があれば、その限りではないが……。


「まだ、復讐を考えていますか?」

「どうだろうな? 機会があれば逃すつもりは無いが……全てを捨てても、とまでは思っていないな」

「俺は、最終的に領主が"報い"を受けてくれればそれで満足なので、お構いなく」


 師匠は、俺と同じく領主に恨みを持っている。別に家族や恋人を殺されたわけではないが……15年前の戦争で、師匠が所属する部隊を指揮していたのがミウラーであり、そのフザケた指示のせいで多くの仲間と、国力を失った。もちろん、ミウラーは前線指揮を任されていただけの中間職だ。直接ミウラーに罪はなく、国も戦後処理でミウラーを公の場で罰する事は無かった。


 しかし、師匠は何度かミウラーとやり取りをする中で、故意に被害を拡大し、戦争を長引かせようとする"意志"を感じた。本人は『腹の内を悟られていない』と思っているようだが……俺は師匠の"人を見る目"を信じているし、何よりミウラーが"クズ"なのは事実だ。俺や師匠の因縁が無かったとしても、領主は元もとより何かしらの方法で合法的に失脚させる予定であった。





「みんな、久しぶり」

「グラム、よく帰った」

「雪は大丈夫だった? さぁ、中に入って。今、温かいモノを用意するわ」

「お兄ちゃん、ちょっと太ったんじゃない?」


 久しぶりのルード。久しぶりの我が家。俺は、温室を村長シェフに預け、ルードに帰省していた。


「うっ。そう見えるか? ん~、そうか……」


 自分の頬を触って確認する。男の基準で言えば"太った"うちには入らないが、確かに頬の肉付きがよくなっている気がする。まぁ、他の連中はエールの飲み過ぎでお腹がアレな感じになってしまったヤツもいるが、俺のはどちらかと言えば……健康的な生活で『理想的な体形になった』って感じだ。


「それより……」

「お兄ちゃん!」

「はい?」

「早くお土産を出してもいいのよ?」

「え? あ、はい」


 なかば強引に土産がひったくられ、家族が品評会をはじめる。もちろん、渡すつもりで持ってきたので、それは良いのだが……温かい飲み物がどうなったのかとか、気になる部分が無いと言えば嘘になる。


「おぉ、この肉はなんの肉だ!?」

「それより、頼んでおいた調味料は!?」

「スイーツ、スイーツは何処!?」


 ダメだ、目の色が違う。俺としては、とっくに"普通"になっているが、ルードで生活する家族にとっては『俺が帰省するときしか味わえない"希少"なもの』となっている。


「いや、ある程度はウチでも取り扱っているだろ?」

「あっちは、商品として扱いやすいものに限定しているからな」

「それに、徐々に受け入れられているとは言え……まだまだ"下地作り"の段階よね」

「あ、あぁ」


 そう、ウチの商店ではドルイドから商品を仕入れ、それらを"ドルイド産"を謳わずに販売している。これは、イーオンの商会に目をつけられない為の対策であり、表向きはホープス商会経由で仕入れた『王都で流行っている新商品』として販売しており、実際に王都のホープス商会の店舗で販売されている。


「もっと大々的にドルイドの商品を仕入れて、料理店とかいっぱい出来るといいんだけどね~」

「それなら、お前がやればいいだろ?」

「それは、もうドルイドで修行している人がいるじゃない? それに、自分の料理を食べるなんて命知らずなマネ、私には出来ないわ」

「お、おぉ……」


 因みに、本来は本格的に雪が積もるこの季節、ドルイドとの交易は不可能なのだが……小型の馬車限定にはなるが、森と行き来できる秘密ルートが存在する。俺が帰省に使ったのもそのルートであり、シェフは『徹底的にルードとの貿易を隠す』方針のようだ。


「さて、それじゃあ早速、グラムのお土産を使って晩御飯を作りましょうか」

「お、待ってました!」

「お母さん、こっちのハムは……。……!」




 こうして、俺は冷えた体を抱えながら、久しぶりの実家の空気を堪能した。

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