第12話丑の刻〜じゅういち〜

調べ事や道具など諸々の準備を終えてから出発した僕達。

因みに準備しているのは僕だけで僕を傍目に他の奴らは双六をしたり囲碁をしたりしていた。

零ぐらいは手伝ってくれると思っていたんだけど、ちゃっかり楽しそうに遊んでたんだよね。

「後で、その分働いて貰おっと」

道中、少女を誰が連れていくのかで揉めたりなんかもしたが、虚無の肩に乗ることで落ち着いた。少女の本体は虚無の袖の中だ。

耳に付ければいいのではと言ったら、少女本人に持ち主以外には云々という理由で却下された。

手乗りサイズのちんまりとした少女が和装の少女の肩に乗っているというなんともファンタジックな光景だが、一般人には見えないので騒がれる心配はない。

僕は必要な物を手に入れる為みんなとは途中で別れて別ルートでやってきた。

橋の手前でウロウロしている一団に左手にアンパン、右手にレモネードを持って合流する。

刑事ドラマで見てから一度やってみたかったんだ。

訳あって牛乳の代わりにレモン100%の無糖レモネードなったけどアンパンは張り込みには定番だよね。

時間は少し予定していた時刻よりも遅くなったけれど、許容範囲内についたのでOK。

「やっほー。マドカちゃんいた?」

「遅いぞ、満。まだいない。しばらく見ているが来る気配はないな。橋どころか道に誰も通らないぞ」

「こっちの橋廃れてるからね。マドカちゃんよく知ってたよね〜。」

おとぎ橋は、新しく利便性の高い橋が近くにかかってからすっかり使われなくなってしまった橋だ。

通じる路地も細い為か人が通ることもほとんどない。

中には忘れてしまったという周辺住民も多いだろう。

「マドカは橋を撮るのが趣味だから!」

「面白い趣味だな。自己紹介の時、盛り上がりそうだ」

自己紹介でそんな特殊な趣味、素直に申告する人がいるとは思えないが。

無難に写真撮影とかでは?

「僕は橋にハマった理由が知りたいけど。単に写真を撮るのが趣味でよくない?何か複雑な出来事でも?」

「ん〜それはねぇ。マドカが子供の時にね、あやちゃんが散歩で橋によく連れて行ってたの。それでね、マドカが写真を撮るとあやちゃんが毎回褒めて上げてたの。ジョーズねーって。だからマドカが橋の写真を撮るのはあやちゃんの思い出を思い出すからなの」

「へぇ。って!」

右肩に衝撃が。

背丈の問題もあるが、なんにしろ僕の右にいるのは零のみである。

「痛いんだけど、零?」

「あれマドカさんじゃないか?」

零が凝視している方向を目で辿れば、遠目に先程までいなかった女性が一人見えた。

「マドカだ!」

今にも駆け出しそうな勢いの少女を両手に包んで抑える虚無を横に、僕はその女性を観察する。

優しそうな雰囲気を纏う綺麗な女性だ。

駅前に居そうな今どきの女子大生というような風貌をしている。

一見丑の刻参りなんて行うどころか知らなさそうな顔をしているが、少女の証言もあるのでマドカであるということは間違いないのであろう。

それに、首には橋を写真に収めるに使うであろう重そうなカメラを下げている。

「あの茶髪の人か。確かにちびっ子と同じようなオーラが出てるね。持ち主に物は似るから。ふむ、マドカちゃんじゃなくてマドカさんだったか。高校生ぐらいかと思ってたんだけどな」

「お前の呼び方なんてどうでもいいんだよ。最初からさん付けにしとけ。このままここにいると、鉢合わせして変な目で見られるぞ。どうする?」

「ああ、それは大丈夫。いい作戦があるんだ。ちょっと耳貸して」

マドカに気づかれないように電柱の後ろに移動し、こそこそと話し合う。

考えた作戦を話終えると零が真っ先に口火を切る。

「はあっ!?そんな作戦、俺は反対だぞ。やってることは実質当たり屋だろ」

「やだな、当たり屋じゃないよ。賠償するのはマドカさんじゃなくて僕なんだから。虚無とちびっ子はこの作戦どう思う?特にちびっ子。別に君の持ち主に危害を加える気は全くないけど、反対するなら止めるよ」

零は反対すると予想していたら案の定反対された。

真っ直ぐ人間の零は後で丸め込むとして外堀を埋めよう。

虚無の返事は確実だし、少女も多分大丈夫だろうが。

虚無の肩に乗る少女と視線がぶつかる。強い思いが感じられる視線だ。

「私はいいよ。マドカを助ける為だってわかってるもん」

少し顔を横に動かして虚無に視線を向ければ、ゆっくりと頷かれる。

「満の作戦は性格の悪さが垣間見えるだけで意外に考えられてる。常識的な態度を逆手にとって相手の心の隙をつく」

「うん、虚無も賛成ってことだね。さあ、三対一だよ。どうする?零。僕のよりもっといい作戦を言ってみてよ」

「降参だ。虚無の発言に100票ぐらい入れたいところだがな」

しばらく考え込むと至極悔しそうに白旗を上げる零。

何故か茶番のように見えてしまうのは僕だけだろうか。

「僕のこと貶すの好きだよね、君たち。まあいいや、作戦は決定した。作戦決行の時間だよ」

さあ、マドカ突撃作戦を始めよう。

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