第11話丑の刻〜じゅう〜
「なるほど。いきなり夜中に出かけるようになったんだね」
付喪神の少女の話を聴き終わり、ふむふむと頷く。
話はこうだ。
付喪神の少女は持ち主、マドカはある日、突然1週間に1度ほど夜中に出かけるようになったらしい。
それだけならなんとでも説明がつくのだが、外に出る際必ず持っていく物が問題だった。それは丑の刻参りの必需品、釘と木槌。
そして、帰ってくるとおびただしい妖気を纏うようになり、日に日にやつれていったようだ。
少女は心配になって今回こっそりマドカの洋服のポケットに入ったところを落とされ、僕達に拾われたらしい。珍しくラッキーだったな。
「夢遊病じゃねーの」
「妖気纏うようになったってこの子いってたでしょ。それに釘打ってるの見たって。零ってなんでずっと僕と一緒にいるのに考え方は化学的なの?神主の息子だよね?理系だから?」
何故、物心つく頃から妖が見えていて、ことごとく僕と怪異に巻き込まれているのに考えることが妖を信じていない一般人の発想なのか。
「理系は関係ねぇよ。ちょっと言ってみただけだ。なるべく妖なんて関係ない方が穏便に済んでいいだろ」
「人間とか病気とかの問題より妖が関係している方のが解決しやすいと思うけどね。退治しちゃえば済むし」
「お前はそういう奴だよな。で、マドカさんが丑の刻参りの本人だと分かったのはいいが、どうすんだ。辞めてもらうように説得でもするか?」
「いや、この件、そう単純にいくとは思えないんだよね。ねぇ、おチビちゃん。君の主人は丑の刻参りをするような相手はいたのかな?あー、悪口をよく言う相手とか。もしくは逆に恨まれてる人とか」
「ううん。いないと思う。私ね、あやちゃ……マドカのおばあさんの形見なの。だからマドカも大切にしてくれて、よくつけてくれるんだ。それでどこに行くのも一緒だけど、そんな人いないと思う」
「自分で聞いといてなんだけど、普通1人ぐらいいない?」
「いない!マドカはとっても優しいいい子なんだよ!」
「えー、嘘だぁ。聖人君子じゃあるまいし、誰かしらいない?」
「ちょっとこい」
あまりにも少女がマドカという子を褒めるので、何となく面白くなって、ちょっと遊んでいたらこれだ。
ミドリと虚無から少し離れたところまで零に襟首を掴まれて引き摺られていく僕。
「もう少しユーモアを持ちなよ、零」
「お前なあ、皆が皆お前みたいに性格がひねくれてるわけじゃないから。積極的に小さい子に世の中の闇教えるなよ」
「小さい子っていっても零より何百歳も年上だけどね」
事実を言ったら、懇々と説教タイムが始まった。いるよね、都合の悪いこといわれると説教しだす人。
全く為にならない説教を右から左に聞き流しながら丑の刻参りの現在分かっている情報を纏める。
本当にマドカが恨みを持ってやっているのなら解決は簡単なのだろうが、マドカがいうには恨みを持つ相手も持たれる相手もいないという。
まだまだピースが足りない。けれど、早期解決が望ましいのだ。
「とりあえず、マドカっていう子を犯人と仮定しておこう。動いている途中で何かに気づくということもあるしね」
「俺の話、聞いてたか?」
「いいや、全く」
「あァっ!?」
何故か怒っている零に捕まらないうちに安全地帯へと避難する。
社交的な少女に話しかけられ、タジタジしている人見知りの箱入り娘、虚無ちゃんの元へ。
「ねぇねぇ、あの人たちとはどういう関係なの?あっ、わかった!マドカが読んでた絵にあったみたいな関係でしょ!えっとなんだっけ。育て親兼彼氏!」
「おぞましい……」
僕が彼氏なのか内容なのか定かではないけど、虚無のつぶやきには概ね同意。育て親が彼氏になる漫画ってなんだよ。
今、そんなドロドロしてそうな少女漫画が流行ってるの。マドカの嗜好が特殊なだけ?
もうちょい聞いていたい気もするが、虚無に放っておいたことがバレるとろくな事にならないので、
「虚無〜、次の行動が決まったよ」
僕が間に入るとあからさまにホッとした雰囲気をだす虚無。
顔は相変わらず無表情だし、目も語らないのだが、僕と零の関係の如く、長年いるとその辺は僅かな雰囲気を察せられるようになった。結構便利だ。
「どうするの?」
「ふふふ、突撃だぁ」
「「とつげき?」」
「そう、突撃。正面突破!いざマドカちゃんのとこへ!レーイ行くよ」
なんであいつはああも……とかブツブツ呟いている零に向かって呼びかける。
ゆっくりと零が顔を上げる。うわ、機嫌が悪そう。先程まで少女を宥めてた優しいお兄さんとは思えないな。
「あ?今度はなんだ?」
「さっさと行動するよ〜。いくら推測しても情報が足りなすぎて真偽不明だ。もう面倒だから本人のことは本人に聞こう。さあ、会いに行くよ」
「おい、会いに行くって何処にいくんだよ」
ブリキ人形の如くギギギと少女の方に方向転換して、
「ごほん。マドカちゃんの生活範囲は?よく出現する所はどこ?」
「無かったことにした」
「な、完全に何事も無かったようにな」
後ろから聞こえてくる雑音は無視無視。
「うーん、よく休みの日は橋の写真取りに出かけるけど。この前、何処に行くって言ってたかなぁ。うーん、なんだっけ。!おとぎ橋だ!大体、4時頃かなあ。でも時々遅くなる時もあるよ。なんでも夕日と橋を一緒に撮るんだって。2ヶ月前なんか近場のはずの橋に6時時に行って、八時頃帰ってきたもん」
2ヶ月前……?依頼を受けたのが一ヶ月前。沼御前が変な音を聞き出したのはその数週間前。
二週間だったらそんなに騒ぐはずは無いし、1ヶ月前からとは言ってなかったから大体三週間ぐらいだと推測できる。だいたい2ヶ月だけど。
橋っていうのも引っかかる。
どこかで聞いた気がするんだけど、思い出せない。
「関係あるのかな」
「今日は土曜日だったから丁度いいな。待ち伏せるか?ん?満、何か言ったか?」
不思議な顔をして尋ねてくる零に首を振る。
「ううん。なんでもない。四時までは少し時間があるね、準備する時間はたっぷりありそう」
左腕の時計を確かめれば時計の針は丁度2の辺りを指していた。いつの間にか一時間近く経っていたみたいだ。
準備を終えれば目指すはおとぎ橋。尾時公園の近くにある川にかかる橋だ。
この頃、凄く公園の周辺に行っている気がするよ。
「ああ、そうだ。一つ聞き忘れてたよ。マドカちゃんの食べ物の趣味とかこの頃変わらなかった?」
「前より甘いものが好きになった気がするけどなんで?」
不思議そうな顔をする少女に、なんでもないと手を振る。
「そっか。それだけ聞けたら十分だ。気にしないでいいよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます