第8話丑の刻〜なな〜
深夜。
これぞ日本家屋の自室に日課となりつつあるゲームの一日クエストの消化を布団に横になりながらする。
所謂、RPGゲームなのだが、キャラの育成に力を入れている。妖や陰陽師の要素もかなり詳しく入っていて面白い。
事実との相違点はたまにあるもののそれもまた創意工夫が凝らされている。
そうとう作り込まれているから製作者の監督者は相当の妖オタクか民俗学の研究者に違いない。
あっ、レア星五でたっ。
一人でガチャの結果に一喜一憂していると、ふと、文机にあるカレンダーが目に入る。
虚無に頼んで既にもう1ヶ月だ。たまに定期連絡が入るもののそろそろ、暇になってきたから音沙汰が欲しい頃だな。
「とどん、とどんっ。式神虚無からの文が届いたどんっ」
ただスマホの画面を叩く音がしていただけの部屋に不思議な語尾のけたたましい声が響く。
丁度音沙汰が欲しいと思っていたが流石にこのタイミングで来るのは予想外だ。
もうゲームをやめて寝ようとスマホの電源を落としたばかりなのにつくづくタイミングが悪い。
先程から手紙が届いたことを知らせる声の音量が段々と大きくなってきている。
耳に響くのでかなり鬱陶しい。後で設定変えようかな。
手に持っていたスマホを慎重に置くと、その声の発生源が置いてある床の間に向かって手を伸ばす。
カエルとトドを混ぜたような生き物を模した球体、トドカエルの口から伸びる糸を引けば、巻物が引っ張られるようにして出てくる。
巻物の紐をといていくと万葉仮名で書いてあったのは、
「これは丑の刻参りで、決定かな。流石、僕。予想通り。懐かしいなほんと」
和紙に書かれた内容を読み進めにつれ、予想が正しかったことが明らかとなっていく。
丑の刻参りとは宇治の橋姫が紀元とされる類感呪術の一種だ。
京都にある貴船神社がゆかりの地で、神社とかで行われることが多い。
しかし、実際は木があれば何処でも効力を発揮する。
他人に見られれば痛いしっぺ返しを食らうし、決定的なデメリットもあるのだが、初心者でも簡単に行えるため呪術のランクとしてはかなり低い所に位置する。
平安時代でもよく恋絡みの嫉妬に駆られた女性がやっておもしろ……いや、酷い姿になっていた。
僕の所にもお偉いさんの娘が代償を食らって縋りついてたきたものだ。
素人がやるのもどうかと思うけど、代償があることを女性も承知の上でやるんだから怖い。
美貌を失うこと覚悟して実行に移すってなんなの。恋は盲目っていうけど。
でもそれは昔のこと。平安時代は夜は妖の活動時間と言われていた為簡単だったが現代は夜も人通りがある為中々難しい上に機会もなく、久しぶりに痕跡を目にした為、半信半疑だったけど正解だったようだ。
それに丑の刻参りだとしたら懸念が一つ。
「普通、丑の刻参りは7日間で終わるはず、何回も行う必要はないのに。必要があるとしたら効力の問題か。まあ、いい」
思考を無理やり打ち切る。怠そうに布団から出て昼間着ていたパーカーを羽織り、部屋の隅に転がっている使えそうな呪術具がしまわれている札を無造作にポケットに詰め込んだ。
大方準備を整え終わると枕元に転がっていたスマホを拾い上げて零の電話番号を打ち込む。
スマホを耳にあてると名前は知らないがこの頃よく耳にする曲がしばらく流れた。
曲調も変だし何がいいのか分からないが今巷で流行っているらしい。
零曰く、耳に残るとか。全く理解できない。眠くなるがクラシックを聴いていたほうがマシだな。
零が電話に出るのを待つ度に聞いているので嫌いになりそうだ。音楽を耳にする度に顔を顰めてしまう。
あっ、やっと繋がった。
「もしもし、零?今から尾時公園に来れるよね。つべこべ言わないの。20分以内には来てね。じゃあ、いつもの入口で合流しよう」
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