今際の際走行列車
酸化する人
第1話今際の際走行列車
カタンコトン
カタンコトン
規則的な列車の音。
それ以外は何も聞こえない。
私の求めてきた静寂…。
今まで感じることが叶わなかった心地よさ。
このままずっと…。
流れゆく景色を見ながら、この時間をかみしめる。
「こんにちは。本日は当列車にお乗りいただき、ありがとうございます。」
突然話かけられたので、びっくりしてしまう。
振り返ると、車掌さん?らしき人が立っていた。
(こ、こんにちは。)
「切符はお持ちでしょうか?」
切符?
そんなもの買った覚えがない。
というか、気づいたらここにいたって感じだったから…。
(すみません。持っていないみたいです。)
「お持ちではない?う~ん。そうですか…。おかしいですねぇ。」
そう言うと、困り顔で私をじっと見つめてきた。
(あのー。私って死んだんですよね。)
「…なぜ、そう思うのです?」
(さっきトラックにひかれたから…ですかね。…そして気がつくと、ここにいたので…死後の世界なのかなって…。)
そしてなにより、ここから見える景色。
そのあまりにも規格外な美しさが、“この世”のモノではないということを物語っている。
私は死んだんだってことを、実感させてくれた。
「う~~~~ん?おかしいですねぇ。」
(おかしい…ですか?)
「ええ。…本来この列車に乗った人は、自分が死んだということを自覚できないはずなんですよ。いや、させないようにしているって言った方が正しいかもしれませんね。」
(…。)
「だ、大丈夫です!ご心配なさらないでください。…貴方を必ずや、終点まで連れて行くことを約束しましょう。」
そう言うと、急ぎ足で立ち去ってしまった。
目を窓の外に向けながら、これまでの人生を振り返る。
世界一。とまでは言わないが、それなりに幸せだったと思う。
もちろん、嫌なことだって沢山あった。死にたくなるほどの辛さや悲しみも体験してきた。
それでも…。
全てが愛しい過去となる。
【終点~。終点~。】
アナウンスが響き渡る。
これで、終わりか…。
「列車の旅はどうでしたか?」
いつの間にか車掌さんが目の前に立っていた。
(楽しかったです。自分の思い出を振り返ることができて…。でも、なんなんでしょうね…。振り返れば、振り返るほど、生きたいと思ってしまう。…。もっと生きたかった。)
「…。そう…ですか。」
そう言えばこの車掌さんは、困惑した顔しか見せなかったな。
今だって…そうだ。
困らせてばかりで申し訳ない。
(では、さようなら。)
「…またの“ご来乗”をお待ちしております…。」
まぶたを開けると、白い天井が目に入ってきた。
ここはどこだろう。
死んだはずじゃ…。
辺りを見渡すと、看護士が沢山いるのが見える。
まさか。
病院?
ということは…私は…。
ベットから下りて、自らの足で一歩ずつ歩いて行く。
今際の際走行列車 酸化する人 @monokuroooo
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