136.顛末三
「まさか、死んだんっすか?」
それが一番あり得るように思えた。
自分が生きていることですら、
「いえ……。」
ただ、それでも
「彼女は少なくとも死んではいないです。」
「どういうことです。」
「実は崖の下で
「はぁ?居なかったってことですか?」
「ええ、
「いや、そんな馬鹿な……。」
「あの崖から落ちたんっすよ?動けるわけがねえ……。」
信じられない心持で
「お前さんが生きてるのだって、奇跡みてえなもんだよ。」
その混ぜっ返すような言葉に煩わしさを覚えながらも、
それを見て
「話を聞いただけの俺からすれば、みんなして狐にでも騙されてるんじゃねえかと思ってるよ。お前一人がとち狂って、突然崖から飛び降りたって方がいくらか信じられる。」
「そんなことはありません。彼女は確かにいました。」
短いながらも
それにちょっと驚いたのか、
なによりも
「それで……どうやって無事だったのかは知らないっすけど、
そう
余りにも挙動が不自然であるために、
「まさか、何も分かってないんですか?」
「いえ……手掛かりと言うか、情報はあるんです。と言うかありすぎると言いますか……。」
「どういうことっすか?何かあったんです?」
その問いに、
それは機嫌を害したと言うより、単純に言うに困って悩んでいることから来る表情であった。
「何と言うか……私たちもあまり話の整理が付いていなくて……。」
「どういうことです?」
言葉を濁す彼女の言わんとするところが理解できず、不思議そうな顔をする
「いや、実はな。お前が崖から落ちた後に、一人の男が寺へとやってきたらしいんだ。」
「男?それが
「あると言えばある。ただ少しばかり話が持って回ることになるんだが……とりあえず順番に聞いて貰った方がよくてな。」
「ふむ。分かったから話してみてくれ。」
「寺に来たっていう男は目と足に怪我をした不審な輩でな。あんな寂れた寺に、しかも斬り合いのあったところにわざわざ来るなんて事件に関係してるだろうと当たりをつけたんだよ。それも隊員たちの姿を見て酷く
「無理やりって……。」
思わずも
ちょいととは言っているが、無理やりにと言っているのであれば、恐らくは随分と荒っぽいことをしたのだろうと推測できてしまった。
「まあ、ちょっとぐらいな……。それでだ。その男が言うには、寺にあった死体と言うか、寺に居た男どもは全員が全員、藩の家老である成瀬重里様を殺すために集まった暗殺のための集団だったんだっていうんだよ。」
「はあ!?」
正直な話、
「それ、本当かよ?」
半信半疑と言った
「事実だろうと俺は思ってるよ。男からは、かなり痛めつけて聞いたからな……。」
彼がそういうのであれば、それは相当なほどに痛めつけたのだろう。傍らで
「男の証言だけじゃなくて、寺の境内に並んでいた死体の中に気になるものがあってな。」
「気になるものだ?そりゃなんだ?」
「
「そいつぁ……。」
「最近お前が探し回ってた奴だろう?それなりに名の通った人斬りだって言う。だからな、家老様を暗殺しようとしてたって男の言葉は本当なんだろうよ。」
「そりゃそうかもしれねえが……、だとしたらよぉ……。」
「あん?」
「その
仮にそうだとすれば、斬った女の方に理があることになる。ともすれば
多少なりに狼狽えた声で呟いて
「そうも考えたがな。仮にそうだって言うんなら、お前らに問われた時にそう答えりゃ良いだけの話じゃねえか。その場で潔白何ぞ証明はできんから真偽を確かめる必要があったろうが、わざわざお前らとやり合う必要もねえ。」
「そりゃそうだ……。確かにその通りだ。」
言われてみればと
「だがな。だからこそ、みんなで頭を捻ってたんだよ。なんで男達と
「やりたくてやったわけじゃねえが……。」
不満げに
「理由なんざ、目が合ったってそれだけで斬り合いになる様な手合いだろあれは。分かるわけねえよ。」
「そうか。」
肩を揺らして
「ま、そっちの件の理由は、それでもいいんだがな。」
「そっちの件だ?何だ、まだなんかあるのか?」
「まあ、何というか……
僅かに言いかけて、
「更に厄介?」
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