133.緊縛の女囚十一
仮に成瀬が
「良いから近寄るな!お主などそもそも儂と顔を合わせることなども出来ぬような
そう叫ぶように言った成瀬の指先はぷるぷると震え、今にも
ただそんな状況も、成瀬の言葉も、全くをもって無視するように、
「そんなことをして――」
「お、おい!!近づくなと言っただろう!」
慌てて成瀬は震えた声を上げる。
その言葉には、どこか懇願するような響きすらも感じられるほどであった。
ただ、そんな言葉も殊更にも意に介せず、更に一歩近づきながら
「もし、貴様が、その子を死なしたのなら。死なしたのならだ――」
その声は、普段の
余りの声の恐ろしさに、成瀬は思わず体を
ほんの僅かに指先を動かすだけで、捕えている女の首筋程度、すぐに切り裂けると言うのに、腕は振るえるばかりで、そこから
そんな成瀬の
「もし、その子を死なしたのなら、毎晩、貴様の枕元に家人の首を斬って届けてやろう。」
床の上に足の裏を擦らせて、ずずりと音を立てながら更に一歩
血に濡れた裾がぐちゃりと粘り気のある湿った音を鳴らして、気味の悪さを一層に助長していた。
「これから毎夜、貴様の寝ている間、指先も足先も、その体の先を一寸ずつに刻んでいってやる。」
低く唸る声で呟きながら
その様子には、正気の欠片の一切も感じられず、視点の定まらない彼女の眼球は虚ろで、狂気を纏っているようにすら見えた。
「貴様の一族に子が生まれたなら、三つになる時に、その首を跳ねてしまおう。」
そうそこまでの言葉を一息に、
「街に出た時には、背中に気をつけろ。」
「どれだけ護衛が居ようと安心できると思うな。」
「これから、少しずつ少しずつ、永遠に貴様へと苦しみを与え続けてやる。」
成瀬は
かたかたと奥歯を鳴らして、最早匕首を握った指先に力が籠められないほどに
既に
部屋を明らめる行燈の油がぱちぱちと不純物を燃やして音を立てる中、薄暗い部屋の片隅へとむかって
まるで何かが憑りついているようで、その言う言葉には、全て本当に実現するだろうと感じさせる凄みがあった。
「良いか――」
低く言いながら、
「これから永劫に苦しむか、それとも、今死ぬか。どちらか選べ。」
それは酷く低く余りにも濁った、およそ人の口から溢れたとは思えない、地の底から這い出たような声であった。
「ひぃっ……。」
悲鳴を上げて、かたかたと成瀬は手を震わせたかと思うと、その掌から短刀をこぼれ落とした。からんからんと軽い音を鳴らして短刀は床へとぶつかると、成瀬の足元から部屋の隅へと向かって転がっていく。
「おや、良い子でございますね。」
「あっ……。」
不意に見せられた笑みに、成瀬が僅かばかりに安堵してしまい、体の力を抜いた瞬間、
果物を片手で掴むような形で、
「今、死にたいと言うことですか。分かりました。」
「えっ……?」
意味が分からずに驚いた成瀬の言葉が漏れると同時に、その頭がぎりっと捩じられて半回転する。
ゴキリ――
と、深く鈍い音が大きく響いた。
次の瞬間には、
「あぶ……。」
成瀬の口から奇妙な声が漏れるとともに、その瞳と唇から、粘り気のある赤い液体が溢れだして、だらりと垂れる。
力を抜いた
どしりと音を立てて床へとぶつかると、成瀬の体は、力を亡くしてぴくりとも動かなくなる。
そこにあったのは、最早息をして活動する生物などではなく、ただの物質でしかなかった。
倒れ込んだ成瀬の体を見下しながら、ふうっと大きなため息を漏らすと、
「一息に殺してあげましたよ。永遠に苦しむよりはマシでしょう?」
死体へと向かい、どこかとぼけたような調子で軽く
言っていることは残忍ながらも、そのお
呆然として見上げている
今目の前に居る人間が本当にここ数日を共にした
「あ……あの……?」
「はいな。どうなされました?」
その余りに現在の
「え、えっと……あの。
「ええ、私でございますよ。」
「本当に……化けて出てきたのですか?」
何を言い出すのかと言った調子で視線を向けるが、
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