129.緊縛の女囚七
「はぁ?」
突然の
「何だ?どういうことだ?」
「あのっ、賊がっ!賊が入り込みました!!」
「賊だあ!?」
「は、はいっ!
「なっ……!一体どこの手の者だ!?」
名古屋に来ていた者たちは
戦乱と言うべき戦乱は収まった
だからこそ成瀬は
「そ、それは分かりませんっ……。」
「何ぞ!?なんと使えぬ奴め!!」
「申し訳ありませんっ!」
苛烈な成瀬の言葉に、家令の男は打ち震えると、必死な勢いで頭を下げた。
「やっ、せ、せめて
「ふむ……。そうだな。その身で
「は、はい……。それで恐らく問題はないかと思いますが、旦那様につきまして、念のためにお逃げいただければと!」
そう言うや、
余りにも慌てていたためなのか、男は戸を閉めるのも忘れてに跳び出していってしまい、大きく開いたままの入口を眺めながら嘆息を漏らす。
「あ奴め、戸の始末ぐらい出来ぬのか。全く。あれも使えるには使える男だが、肝心な所で事を急きおる。おい。」
呆れ声で成瀬は言って、顎をしゃくって戸の方へを指し示すと、
「逃げなくても?」
「逃げる必要が?」
「まあ、いらんとは思いますがね。」
鼻で
丁度、部屋の外からは、
「なっ……、もうこんな所まで……。」
廊下へと出ていった
ほんの小さな
気が付けば。
そう、気が付けば、いつの間にやら、あれほど騒がしく聞こえてきた家人達の慌ただしい足音も、騒々しい叫び声も聞こえなくなり、屋敷全体がひっそりと余りにも静かになっていた。
静寂の中で、鞘から刀の抜ける金属音が一つ鳴った。
次いで直ぐに、ぎいんっと金属と金属とが衝突し擦れあう長い音がうなりを立てるや、重ねて二度三度と刀のぶつかり合うのが聞こえてきた。
そして唐突に刀の重なる音が途切れたかと思うと、一瞬、屋敷の中がしんっと静まり返り、そして次の瞬間、
「ぎゃああああああ!!」
と、男の悲鳴が廊下から鳴り渡ってきた。
「なっ……。」
余りに大きく悲痛な叫び声に、
そして途端、
ダンッ――
と、大きな音がして、その音のした方へと成瀬が顔を向けてみると、部屋の入口へとしな垂れかかるように、
敷居をまたいで男の腕が部屋の中へと垂れ下がり、顔はあらぬ方へと向かい、眼鏡は
膝がなかった。
下腹部がなかった。
ありていに言って異常とも言える男の有様を眺め、そこでようやく成瀬と
その二人から僅かに離れた所で、部屋の壁に肩を寄りかからせながら
痛みで意識が定かではなく、全ての会話が理解できたわけではなかったが、駆け込んできた賊が来ているのだと言うことは聞き取れた。
正直な話、
少なくとも、今この時に男共に加虐されることのないという事実が有難かった。そしてもしも賊が入り込んできて自分も殺されると言うのならば、それもそれで、今感じている痛みから解放されるならば、その方が益しだと、そう言う心持があった。
部屋の外からは、ずるり、ずるり、ぴちゃぴちゃっと、何か水気の帯びたものが這いずり廻る音がして、徐々に徐々にと近づいてくるのが分かる。
「あ、あ゛……あぐ……。」
部屋の入り口では下半身を失った
「逃――」
何かを言いかけたその刹那。
唐突に、
ズンッ――
と、男の頭へと刀が突きたてられた。
部屋にいた者たちは、刀の突き抜けた音に思わず体を
左
戸の向こう側から、すっと
体を踏みつけていた足が、すっと太ももを持ち上げて開いた戸の隙間から消えたかと思うと、やにわに振り子の如く勢いをつけて足先が男の体を蹴り飛ばした。
ぐしゅりと内臓と肉の潰れる音を鳴らして、男の上半身はそれで、入り口から廊下の向こう側へとすっ飛んでいった。
そうして勢いよく壁へガツンッとぶつかって、屋敷全体を軽く揺らす。
半身とは言え人の体が
廊下からは水気の帯びた布地が、床をずりずりと擦れていく音がして、入り口から差し込む光に人影が落ちた。
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