128.緊縛の女囚六
「大丈夫でしょう。たとえ死んだとしても、それでいいではありませんか。」
「……まあ、死ぬ間際の顔は一番の見物ではあるがな……。」
僅かに顔を渋らせながらも、成瀬は結局、
「ま、やるが良い。」
と、
これから一体何をしようというのか理解できずに、
「いつっ……!」
今までと違う部分を痛めつけられて、思わず右腕から顔を離してしまいながらも、
先ほどまで、指を掴んで来たのにも
途端に、
今、これから、腕を折られることになるのだと。そう、理解できてしまった。
指の骨を折られただけで、堪えきれようのない痛みであったのだから、腕など圧し折られた時には一体どれほどの痛みが襲ってくるのか。そもそも痛みを感じると言う程度で収まるのかすら分からない。その恐怖心に囚われて
みしりと握られる手首が音を鳴らし、一層に痛みを増していき
折られるところなど、見たいはずも無かったが、それでも
「あ…ああっ……あああ……。」
恐怖で
「ぎっっ……!」
途端に腕全体が軋み、その中心を痛みが縦に貫いていって、
「がっ……! があああっ…! ぐぐぐ……!!」
最早痛みへの反射かのようにして
それでも、暴れまわってしまえば、その拍子に骨が折れてしまいそうで、体を縮みこませると、ただひたすら痛みを堪えるために、腕へと力を籠める。
骨が太いためなのか、指の時の様に一瞬で折れるのとは違った。
だが、むしろそのせいで痛みは徐々に徐々にとゆっくりと大きくなっていく。より長く続く痛みに
痛みが堪えられる最大限にまで達したと思った瞬間、
ピシッ――
と、何かが
「あぐぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
腕に鈍い痛みが走り、それが全身へと駆け抜けて、
足が跳ねて、背筋はびくりと反り返り、後頭部を壁へと打ちつけた。
左手は指を握りしめすぎたせいか、酷く強張って開けられぬほどに固まってしまっていて開きそうもなかった。
一瞬、
それほどの痛みがあった。
少なくとも指が折れた時よりも、激しい痛みがあった。
だが、痛みに耐えて
骨は折れず、ただそれでも
当たり前だが、まだ折れていないと言うことは、まだ痛む、と言うことでもあった。
それが証拠に
「はぁ……はぁ……。」
これから先ほどよりも強い痛みが襲ってくるのだと言う事実に
「あっ……あ…あっ…あっ……。」
膝は震えて、目からは
気が付けば股の間はぐちょぐちょに水気を帯びていて、床には小水で出来た水溜まりが出来ていた。失神の時にすら漏れたはずにも拘らず、それでもなお痛みからくる筋肉の収縮で、
「あ……あぁ……ふ…
もう居ないのだと分かっていても、
「はんっ。」
そんな
ぎりっと掌を引き絞り、腕を内側へと折り曲げようとした。
その瞬間だった。
ミシッ――
と、大きな音が響いた。
ただ、それは腕の骨が割れる音ではなかった。
むしろもっと大きく、屋敷全体を揺るがす様な音が響いてきた。
「ほっ?」
「なんだぁ!?」
成瀬が戸惑った声を上げ、
腕こそ掴まれていたままだったが、手首と肘を掴む力が緩んだのを感じて、僅かばかりに
何が起きたのかは分からなかったが、少なくとも、今この時に痛みが訪れなかった事実に胸を撫で下ろしていた。
先ほどの音とともに、不意と屋敷の中が騒がしくなり、方々から上がり始めた声がこの密室にまで伝わってくる。
何が起きているのかと、成瀬と
「なんなのだ一体。騒々しい。
忌々しそうに顔を渋らせて、成瀬はがつんっと近くにあった壁を殴りつける。
随分と苛立っているのか、酷く強く拳がぶつかりはしていたが、それでも今しがた聞こえてきた柱を揺らす音とは比べ物にならない程に小さく、それは慎ましいと思える程の音でしかなかった。
未だに騒がしく叫ぶ男共の声が鳴りやまず、男二人が耳を澄ましていると、更にどかどかと廊下を走る音が響き渡ってくる。どこか一つの方向へと向かっているようで、ちょうど屋敷の奥から入口の方へと足音は遠ざかって小さくなっていく。
ただ、その中でも一つの足音だけが逆に大きくなって来て、どうやら部屋へと近づいてくるのが分かる。
とっとっとっと足音を響かせて、それが部屋の手前まで近づいてくると、不意にがらりと部屋の戸が開かれた。
すっと明るい光が差し込んだかと思うと、戸の開いた狭間からは、
それは以前、
言うてしまえば成瀬にとって家の中で最も信頼のおける男であり、それが故に、このようなあからさまに成瀬の恥部である、加虐趣味を満たすためだけの部屋に入ることも許された人間の一人でもあった。
心を許す家令が顔を表したことに、成瀬は多少なりとも緊張を解いて、分かりやすく口をへの字に曲げて苦々しそうな表情を浮かべた。
「おい、どうした?騒々しいぞ。儂が楽しんでおる最中だと言うのに、興が削がれること甚だしいわ。早く
「あっ!いえっ、そのっ……。」
手厳しく怒鳴ってくる成瀬の言葉に、家令の男はあたふたとした様子で言葉を惑わせた後、一旦、声を途切れさせると息を呑んで、そして叫ぶように声を上げた。
「にっ!逃げてください!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます