127.緊縛の女囚五

 成瀬は満足そうに顎を撫でながら幾度も頷いていて、虎丸とらまるに至ってはその光景と指を折った感触とで興奮したのか、股座またぐらの布を押し出すほどに股間の一物を怒張させていた。はかまの上からもひくつく血管が分かるほどに強直はそそり立っていて、身を覆う布地を破れんほどに押し上げていた。外であれば百人が百人に顔をしかめられるそんなあからさまな痴態ちたいも、傍らに居る成瀬は文句を言うつもりもないようで、唯一嫌悪を示しそうな桔梗ききょうは、それどころではなく痛みに体を縮こませるのみであった。


 しばらくすると、痛みに慣れてきたのか、それとも身をのた打ち回らせる体力もなくなったのか、桔梗ききょうは暴れるのを止めて、身を小さく丸め、肩を揺るがせては、荒く、そしてか細く呼吸を繰り返すだけになっていた。ぎゅっと膝を曲げ体を縮みこませ、奥歯を噛みしめさせて、桔梗ききょうは痛みに打ち震えては、「ぐぅぅぐぐぅ……」と汚いうめき声を漏らす。その顔には既に涙が溢れて、鼻水も垂らし、ぐちゃぐちゃとなってしまっていた。


 桔梗ききょうの動きが止まったのを見て取って、虎丸とらまるはその体へと近づくと、腕を無理やりに引っ張って、縮こまっていた体をつるし上げる。


「さて、もう一本と行っておこうか。」

 どこまでも軽い調子で、虎丸とらまる桔梗ききょうの薬指を手に取った。途端、桔梗ききょうは息を呑んで、今までになくすがるような目つきをさせて首を振った。


「や、やめ……。」


 何度も首を振るうが、虎丸とらまるはそれを見下ろして、むしろたまらなさそうに口をゆがめると、股間の強直をより一層と硬く怒張させて、何度もびくびくと跳ねさせる。軽い絶頂を感じているのか、その先端と触れる布地は僅かに黒く染みが広がっていた。


 ひゅうっと息を吸い込むと、虎丸とらまるは生唾を飲み込み、

 そして室内にぺきっと軽い音が響いた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」


 愉悦ゆえつに満ちた顔で虎丸とらまるは、桔梗ききょうの指をへし折っていた。それは先までの二本ように関節を外されたと言う程度のものではなく、基節きせつの中頃から骨が見事に二つへと割れてしまっていた。そして裂けた先端が皮を貫いて、手の内側から肌の下の肉があらわになって、更には骨を剥き出しとなって飛び出していた。


「いーひぇひっひっひぇひっ!」

 途端に噴き上がったような下品な笑い声を上げて、虎丸とらまるは身をかがめて口を押えるがそれでも耐えられないように、指の狭間から笑い声を零れさせる。


「ぐぐうううううぅ!ああああっ!ぐう……!」


 その足元で桔梗ききょうは大きな叫び声を上げ、痛みに耐えきれず、狂ったかのように何度もがんがんと背中を壁に打ち付けて、ばたばたと暴れるに任せて振った足は床にぶつかって、白かった肌に無数の青いあざを作っていた。手枷てかせに絞められた手首は擦れて傷だらけになり血を流し始めてさえいる。足を振り回して暴れる桔梗ききょうの姿は、駄々をこねる稚児ちごのようですらあったが、彼女の有様は子供の痴態ちたいとは比べ物にならぬほどに悲惨で、だからこそに、それが見つめる二人の興奮を更に煽る結果となった。


「ふははははははっ!やはり、やはりなぁ。骨を折った時の人間の跳ね方と言うものは楽しいものだ。これだからやめられん。ああ、堪らない。」


 暴れまわる桔梗ききょうの姿を眺めて、虎丸とらまるは「くひひ」と更に下品な笑い声を喉奥から漏らす。

 傍らでは、その言葉を聞いていた成瀬が半ば呆れ気味に溜息をついて、すませた表情で首を振るった。


「分かっておらんな。一番良いのは痛みに耐えられず顔を歪ませている時ではないか。綺麗に整った顔がみにくく崩れるのが良いと言うのに。」

「いや、それも分かりますがね。まあ、良いではないですか。それは俺と趣味と言うものです。」

「そうかそうか。ふふ。」


 二人して立ち並び、苦痛で涙を流す桔梗ききょうを見下して、下卑げびた笑みを浮かべていた。


 その笑みを涙でにじむ視界の中でで見て取って、桔梗ききょううめき続けながらも、二人を怨嗟えんさの心持を籠めて奥歯を噛みしめ続けていた。最早言い様の無い痛みに顔をぐしゃぐしゃに歪め、涙と鼻水は留まることもなく顔を濡らして頬からぽたぽたと滴が落ちていく。指先は肉が融けて落ちそうに感じるほど熱いにもかかわらず、体は凍え始めているのではないかと思うほどに寒気が走り背筋を震わせて、顎が歯の根を合わせることもできなくなり何度もがちがちと音を立てていた。感じきれる痛みが限界を超えているのか、目の前で星がまたたいているかのごとくに視界には白い光がちらついて、気が遠くなっていく。何度も落ちそうになる意識が痛みによって揺り起こされて、痛くて痛くて、そしてただひたすらに辛く、桔梗ききょうは、もうこんな痛みを感じさせられるのであれば、早く殺してしまって欲しいとさえ願い始めてしまっていた。


 息を乱して、浅い呼吸を繰り返し、言葉にならないうめき声を混じらせながら、


「殺して……。」

 と、呟いていた。


 途端、虎丸とらまるがぐいと桔梗ききょうの髪を掴むと、無理やりに顔を引き上げる。


「おい、死にたいのか?」

 俯いた桔梗ききょうの顔を、虎丸とらまるは覗き込む。虎丸とらまるの顔は先ほどまであれほど愉悦ゆえつに満たさせていたのとは打って変わって、怒りに満ち溢れた表情へと変貌していた。


 ただそんな感情も桔梗ききょうは悟ることが出来ずに、ひたすらに恐怖で虎丸とらまるから視線をそらしてしまう。


 それが気に食わなかったか、虎丸とらまるは眉を潜ませて、髪を掴む力を強くした。


「あっ……がっ……。」


 頭の皮が剥がれると思うほどの痛みに、思わず桔梗ききょうは顎を下げて嗚咽おえつを漏らした。

 それも構わず虎丸とらまるは一層に指先に力を込めて、ぶちぶちと何本か桔梗ききょうの髪の毛をむしり取る。

 その痛みに、ぎっと桔梗ききょうは小さく悲鳴を上げる。


「おい。まだお前を殺すわけないだろう。なんだ、お前はまだ指の三本折れただけだ。この程度で俺の恨みが晴れるとでも思ってるのか?」

 桔梗ききょうの頬へと噛みつかんばかりの距離に顔を近づけると、ひゅうっと虎丸とらまるは臓腑から湧き出したかの如き熱い吐息を吹きかける。


「お前には、もっともっと苦しんでもらわんといかん。そうでなくては俺の指とは釣り合いなんぞとれるものか。いいか?俺の指だぞ。俺の指だったんだぞ。お前の指が何本折れても代わりになるものか!」


 そう怒声を浴びせるや、虎丸とらまる桔梗ききょうの髪を掴んだまま、もう一方の腕で思い切りに顔面へと拳を叩き込んだ。

 めりっと音がなって、桔梗ききょうの頬が形を変えていた。


「がっ……!」

 桔梗ききょうの顔が後ろに跳ねて、叩き込まれた拳と同じ勢いで壁へとぶつかる。拳のめり込んだ顔からは、ぼとぼとと鼻血が漏れ出て、床へと滴っていく。


「うぁぅ……。」


 うめきながら上げた桔梗ききょうの頬は腫れあがってどす黒く変色していた。

 その様を眺めていた成瀬が、はあっと溜息をついて、苦言めいて口を開く。



「おい。顔は殴るな。整った顔が歪むのが良いのだ。腫れあがった顔で苦しまれても興がそがれるだけだ。」


 そう成瀬が言うと、虎丸とらまるは「へいへい」と適当に返事をして、ようやく掴んでいた桔梗ききょうの髪を離す。開かれた指の狭間からは、むしられた髪の毛がぱらぱらと幾つも舞い落ちていった。それも虎丸とらまるは汚らわしそうに、何度も手を払う。


 自分の顔を掴み上げていた虎丸とらまるの手から離されたことで、桔梗ききょうは途端と顔を項垂うなだれさせる。


 床を見つめて鼻血をぽたぽたと垂らし続けながら、桔梗ききょうは二人にされるがままに苦しめられることが悔しくて、ぼろぼろと更に涙を溢れさせてしまっていた。


 悔しくて、口惜しくて、辛くて仕方ないが、それでも何も出来ず、ただひたすらと彼らが楽しむための道具になるしかなかった。



 痛みと屈辱とにまみれて、もうせめて一思いに殺して欲しいと心中で願いながらも、それすらも口にすれば、今のように更に痛みが強くなることを知って、何も言えなくなって、桔梗ききょうは絶望でぼろぼろと涙を流していく。



「さて、と。ただ指を折り続けるの、そろそろ詰まらなくなってくるな。そろそろ大きいのも一本ぐらいいっておくか。」


 手を払いながら軽い調子で虎丸とらまるが言うと、成瀬も頷いて、その言葉に同意する。



「おお。そうだな。そろそろもっと刺激が欲しいところだったが。だが、痛みで死んでしまわんか?」


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