124.緊縛の女囚二
そこに佇んでいた人影は二つだった。
目を凝らしてみると、薄ぼんやりとながらに、その外形が判然としていく。
一つの人影は、屈強な男であったが、右手の指が欠けていて、その傷を守るように布を巻きつけている。
もう一つの人影は、背丈の低く、顔に皺の入った老人であった。
その二人のことを
意識は未だに濁ったままで、
ただ、その
「ほう。ようやく起きたか。」
老人の方の人影が
声のした方へと目を移ろわせて、
「成瀬様……。」
そう言葉にして、ようやく
そうして改めて成瀬へと視線を向けた所で、
何とも
見上げてみれば罪人や
「なっ……これは……?」
「無駄だ。」
不意と目の間に佇んでいた成瀬が口を開いた。
「その
言われて顔を
「成瀬様。何故。一体どうしてこのようなことを?」
「何故?何故、お主をこのように捕えておるか、か? 家の外でお主を始末して、血を残しては誰に何を気取られるか分からんからな。差しあたって家の中に運ばせてもろうた。それと後は、幾分か儂の趣味もあるが……。」
けひっと喉の奥を鳴らして、成瀬は何とも
ただ
「私を始末……?なにを?」
「ふむ?お主覚えておらぬのか?頭を蹴られて、記憶を失ったか?それや混乱しておるのか?」
「頭を……蹴られ?」
そこまで口にしたところで、
刹那、
剣華組に襲われた
その態度で、成瀬は
「思い出したか?思い出したなら良い。そちらの方が儂としては断然に
「なにをっ……。」
思わずも
「無駄だと言うたであろうが。」
呆れたとでもいうように、成瀬は肩を竦めた。
「なにゆえ……。」
「ふむ?」
「なにゆえ
「どうして、か。別段、答えてやる理由もないが……まあ、教えてやっても良い。そもそもな、
「は……?」
逆に問い返されて、その問いの意味が分からず
「理由など、知るはずがありません。」
困惑したままに
「知らぬか。と言うか、だ。お主程度では考えが及ばぬよな。」
自慢げに言う成瀬に、
「だから、何が理由だと言うのです。」
くっくっくと成瀬は肩を揺らした。
「儂が不逞の輩どもに命を狙われておったのはな。儂が大樹公の子倅……尾張の藩主を亡き者にしようとしておるからよ。」
「は?え?藩主の……?」
直前まで怒りに満ちて成瀬を睨み付けていた
それほどに成瀬の言ったことは
主人を裏切るなどと言うことをすれば自らが危ういだけでなく、藩主を狙うなどと大それたことをすれば、親族や係累までもが皆殺しになることもままある話であった。少なくとも軽々にできるものではない。
類縁の存在しないと言って良い
だからこそ、大きな一族を為している成瀬が主人の、しかも藩主などと言う巨大な存在に
「な……何故。そんなことを……。」
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