119.武家屋敷の惨劇二
急いで駆けてはきたが、
「おい、やめろ。こんな夜更けに何の用だ。」
「ここの家主に急ぎの御用があるのですが、入れていただけませんでしょうか?」
「ああん?どこのどいつだ?」
「先日、この屋敷へ訪れさせていただきました
言うや、戸を隔てても分かる様なほど、向こうの男が大きく鼻を鳴らして笑うのが分かった。
「知らんな。明るくなってから来い。」
余りにも
「顔を見てくだされば思い出すのではありませんか?」
「とかく言うな。なんにしろこんな夜更けに
軽くでも門を開けさせるつもりで言うたが、取り付く島もなく、何ともつっけんどんに返されるもので
「そうですか……。それならそれで結構でございます。私を取り次いでいただく必要はありません。ただそれは良いにしても、私の旅の連れは返していただきたい。ここを訪れてから宿へ帰ってきていないのですが、こんな夜更けだと言うのでしたら、そろそろ連れを返してはくれませんかねえ。」
つらつらと
本当のところ、宿に帰っているかなどとは確認していないが、どうせここに居るだろうと
僅かに間があった。
その静寂は深夜であるがために一層に静やかに感じられて、そのせいか、言葉に詰まったのだろう男の刹那の身じろぎすらも衣擦れの音で悟ることが出来た。
「何の話だ?今日は客人など、この家には入ってきておらんが。」
白々しく男は言葉を返してきたが、
「いやはや、おかしうございますね。確かにこの家に訪れたはずなのですが。」
「……何と言おうが、来ておらんものは来ておらん。」
「はてさて。また奇怪なことですねえ。
「……し、知らん。そんな者は来てもおらん。」
多少言葉を惑わせながらも、白を切りつづける男の態度に、
「どうあっても入れては貰えませんのでしょうか?」
「当たり前だ。誰とも知れぬ奴が何度言おうと変わらん。帰れ。」
「左様ですか。それでは仕方ありませんね。」
門を開けてもらえぬならば仕方なく、なれば別の場所から入るだけだと、
「ふむ……まあ、行けましょうかね。」
見上げながら一つ二つ頷くと、腰に差していた二本の刀の内から一本を括っていた紐を解いて、
それは
やにわに
「ふっ!」
地面から跳び上がって、壁へと向かって体を浮かした
ふっと体浮くや
腹の傷が痛むのを感じつつも、
半ばほどまで腕が曲げるほどに体を引き上げたところで、
庭園の殆どはひっそりと薄暗く、生えている木々の外形が僅かに分かる程度でしかなかったが、屋敷の方へと視線を向けてみると、妙に煌々と明るいだ一角があるのが見えた。
どうやら玄関の近くで
そうして今度は
粗方に
* * *
不意と、闇夜の中に、どすんっと地面に何か大きなものが落ちたような音が響いた。
何をやと門の近くに立っていた門番の一人が、音のした方へと顔を向けてみると、暗い闇の中に一塊の影がうずくまっているのが見える。
その影は直ぐにぬうっと立ち上がると、するりと音もたてずに近づいてくるようであった。
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