117.滴る血二
往来にはぽつりぽつりと人影が行きかっていたものの、その誰も彼もが、身の薄汚れて血を垂れ流す
いつの間にか上がらなくなった足を引きずって、軽く息を乱しつつも、無理やりに街の往来を歩いて、
それは見るからにみすぼらしい平屋建ての家屋であり、入り口の文字も殆ど見えないほどに
もう仕事を終えたのか、その
足を引きずりながら、その建物へと近づくと、
「……なんだ?」
不意に、戸を叩く音に割りこむように声がして、僅かに割れた戸の隙間からぎょろりとした目が覗いていた。
それは大分
問う声してきたのに反応して
「こんな夜中に、こうも戸を叩いているのですから分かりましょう?手当をしていただきたいのですよ。」
「ふん、嫌なもんだ。今日はもう全部
「そうでございますか。でも、まあ、そう言わずに。これでお願いいたしますよ。」
そう言って
「ん……これは……?」
男が割れた戸の隙間へと、手渡されたものを翳して、その外形を眺めると、それは、一枚の鉄銭のようであった。表には「上」に「少」と描かれて、裏には熊の図案が描かれていて、それはあの成瀬に貰った
「入れ。」
戸の向こう側から顔を出した男は、周囲をきょろきょろと見回して誰もいないことを確認すると、今にも倒れそうになっていた
割れた戸の隙間から、未だに注意深く往来を眺めている男を背に土間を進むと、僅かに高くなった床へと
「おい……あまり大きな音を立てるな。隣人に怪しまれる。」
「すみませんねえ……。」
床に伏せ込みながら
「いやしかし、貴方様がこちらに移り住んでいることを憶えていて、本当に良かったですよ。」
「こちらとしては、忘れてほしかったがね。」
覗き込んでいた割れ目から目を離すと、医者の男は床へと上がりそのまま近くにあった箱へと手を伸ばす。木製の箱の蓋をとると、その中には様々な医療道具が供えられているようであった。中の道具を改めながら、男は
「それで?どこをやられた?」
「腹を。」
言いながら
真っ赤な血でのっぺりと覆われた切れ目からは、薄紅色の腹膜が覗き込み、
「全く……お前が、また手酷くやられたものだな。引退して腕でも鈍っていたのか。」
言いながら男は近くにあった水入りの桶を掴むと、手元へと引き寄せる。
「引退などしておりませんよ。ただ、しばらく気ままに旅をしていただけのことです。」
「どうでもよいがな……とりあえず傷を洗うぞ。」
桶の中へと
「っ……。」
傷口が痛んだか、
そんな様子にも全く
「中を開いて異物が入ってないか調べるぞ。」
「どうぞ……。」
顔を顰めたままに
ぱくりと傷口は開いて、皮膚の奥にある腹膜が大きく露出すると、男は火の
じろりじろりと下から上と視線を動かしていく中、はっはっと細かく息を切らしつつ、
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