98.荒びた古刹九
「何ともせせこましい人たちですねえ。もうちょっと、優雅さと言うものもあってよいのでは?」
「なにがなにが。
周囲を取り囲んでいた男達の中からは、一際に背の高い男が一人、何とも自信に満ちた表情で一歩前に足を踏み込んだ。ここまでの斬り合いを眺めて
男の背の高いこともあり、それは
仮にこの刀が真っすぐに
遥か上段に構えられた威圧感と言う者は、目の前にしてみなければ分からぬもので、経験したことのある者とない者では絶対的に認識が異なる。
例え
そうして、異質であることを理解してしまえば、それだけで普通の人間の平常心と言ったものは見事に乱れてしまうものであった。ただ――それも、平常心などと言うものが乱されるのは、心に平常があるものの話と言って良く、刀を上段に構えて威圧するかのごとくに立った
そんな表情も、
「俺の名は――。」
男は荒れ地の広がる寺の敷地内の隅から隅まで、一言一句が
口上を上げることで、自らの功を周囲に知らしめる心積もりなのだろう。
「
続けて男は朗らかに胸を張り上げて、口上を
そうしてすうっと次の言葉を紡ぐために男が息を吸い込んでいく。
その刹那、即座に
ひゅうっと風を切る音をさせて、小刀は瞬く間に男の開いた胸元へと吸い込まれていく。
「
最後の向上を口にしかけた男が、びくりと体を震わせて言葉を詰まらせる。
くっと喉を鳴らして、僅かに
「ぐぅぅ!?」
それだけでは致命傷ではなかったのか、身を屈めながら男はその大きな掌で自らに刺さった小刀を抜き去ろうと、柄を掴んだ。ただ、その隙だけで
「おぅ!?」
「あがうぅ……。」
空中で刀を振り切って、地面へと降りたった
ざわざわと、大きく声を上げもしないが、どこか小さく文句を言い、舌打ちをする音が聞こえてくる。
ただ、そんな視線も、態度も、むしろ
「ふぅ……これで十人でございますね。名乗りを上げてる
そう
「ちぇああ!!」
奇妙な叫び声を上げ、真っすぐに突っ込んできた男が
「ぐぷぅ……。」
一瞬、かくんっと意識が飛んで膝から崩れ落ちそうへとなっていく男の腹へ、すかさずに足先を伸ばして爪先で下腹部を蹴り上げる。腹筋を抉りながら足先が腹部へとめり込むと、内臓が下からせり上がる痛みに男は内股をがくがくと震わせて「ひぃぃ~~っっ」と悲鳴を上げていた。
頭が揺らされ
腕を振るった勢いのまま、
「ぐぉっっ……。」
僅かに男が唸り声を上げた。
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