96.荒びた古刹七
「っ。」
咄嗟のこととはいえ、こんな幼稚な釣りに引っかかってしまったことに、思わず
男の体の寸での先を槍の穂先が空振って、勢い良く流れていってしまう。
その瞬間を狙いすましたように、左右に分かれた男達が、二人同時に飛びかかってきた。右からくる男は上段に振りかぶって、左からの男は下段に刀を滑らせながら迫ってくるのを、
思い切りに空振らせた腕へと力を籠めて、その手首をくんっと
「遅うございますよ!」
勢いよく、
弧を描いた
ひゅぅっと切っ先が空気を裂く音が通り抜け、次いで直ぐにガチンッと硬く金属の弾け合う音が周囲へと響いた。
それは
衝突し、そして刃を重ね合ったまま、ぎりぎりと鈍い音を立てながら、二人の間で切っ先は拮抗しながら僅かに左右へと揺れていく。
「くっ!」
小さく
回転させ、そして
次の瞬間、男の掌から刀は消え去っていて、刀はくるくると空高く舞い上がっていた。
「ぎっ!」
手持ちの武器を失ったことで、口惜しさと怒りと恐怖とを綯い交ぜにした男の歯ぎしりが小さく鳴った。一方で、背の小さいはずの
「うおぉぉっ!!」
「っ!?」
勢いよく振り下ろされてくる刀を、
みしみしと
そこで、幼き
急に目の前で笑い出した
「何笑ってやがる。」
「いえなに、斬り合いをしているのが何とも楽しうございましてね。」
「そうかよ!」
さらにくっと男が力を籠めて、刀を押し込んでこようとした途端、槍の
咄嗟、刀を握りしめた男が顔が渋くなり、ぐうっと小さく唸る。
刀を握りしめて無防備となった男の横腹へと、
「なに…くそがっ。」
ただそれでも、男は刀を手放すことなく、苦虫を噛み潰したよう渋い表情を無理やりに噛みしめながら、槍の柄へと向かって一層に力を籠めていく。片足を上げた無理やりな体勢に、ぎりぎりと両手を押し込まれながら、
「ぐぅっ……。」
痛みに強く顔を顰めた男は、流石に堪えきれぬと言う様子で、ぱっと押し込んでいた刀を引いて体を
「がはっ!?」
肋骨を強打されて脂汗を浮き立たせると苦悶の表情を浮かべて、男はその場へと倒れ込んでしまう。
「ぐぅぐぐぐぐ……。」
痛みに歯を食いしばって地面を握りしめながら、小さく唸る男の様子を見て取って、
人の身丈よりも余程に長い槍の、その穂先が綺麗に円を描いて、駆けだそうとしていた男の
ぷっつん――
と、弾けるような音がして、男の踝が大きく裂けると、真っ赤な血が迸って、足が弾かれる。
「あっ……。」
勢い駆けようとしていた体が平衡を失って、見事にもんどりを打つと、男は顔面から無様に地面へとぶつかって、そのまま半回転して、更にはその腰を地面へと打ちつけていた。
「ぐががが……。」
足も顔も腰も、全身に痛みを感じて男はのた打ち回ると、その倒れ込んだ体へと向かって
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