95.荒びた古刹六
男達が息を呑む一方で、彼らと
建物の陰に隠れながら、彼女たちの攻防の一部始終を見つめていた
刀を器用に扱うのも何度も目にしてきた。
ただ、槍までもがあれまでに、いや、あれほどまでに圧倒的に、まるで
「何というか……、あれは何なのでしょうか……。」
問うように呟きながらも、その傍らには誰も答える人はおらず、ふっと砂煙を上げた風と共になって虚空の中へと消えていってしまった。
元々、戦場においては刀を使うことは稀と言っても良く、槍と弓と、たまに投石にと、何でも使って生きて行くものであり、少なくとも槍と弓とをも扱うことすらできなければ、兵法家でないと言っても良いぐらいであった。
そこへ更には当て身や組技までが使えて、初めて戦場で生き残れることが出来ると言える。だからこそ、ある種で言えば武芸を扱う者にとって、つまりはここにいる者の多くが槍なり弓なりを、それなりには扱えるはずであり、また一方で相対した時の対処も多少は心得ているはずであった。
それが、ああも容易く切り捨てられていくことに、
そう言う言葉が存在する。
百は数多を指す言葉であり、それは諸般の武芸のその全てに通じ、そして全てが余人の及ばぬ領域に達すほど卓越していることを表す言葉であり、例えばそれは寝物語として語られる
喉を鳴らし緊張しながら
ただそれでも、流石に暗殺などと無法を働くために集められた荒くれ者達の気の強さからか、引くにも引けず、刀を構えたままきっと
そうしていると、男達の中でも一際に目つきの悪い輩が、一瞬左右に目配せをすると、近くにいる男へと一人ずつに手招きした。三人が並び寄ると目つきの悪い男は、
三人が何やら機を測ったように、同時に頷くと、目つきの悪い男が微かに足を
奇妙な物だが、前に突かんとするときには足は引かれるもので、慣れぬと感覚的には反するようにも感じられる。だが、より前に突きたいと欲するならば、足は引くことで、より強く脚の筋を伸ばし力が溜まり、一層に強く早い突きが放てる。それは弓と同じ教えともいえる。中国に古より伝わる老子の教えには、伸ばさんと欲せばまず縮めよとも言う、理屈に倣えば、突かんと欲するならば、まず引くのか妥当であった。
左右に居たはずの男達は、にじりにじりと足を蟹の如くにのっそりと左右へと動かし
何をするつもりなのか、少なくとも無闇にかかってこられて、ただ突き殺すなどとよりは、さほどにはマシな仕立てであって欲しい。この場に立った
だからこそ、と、自らが楽しむために、
見つめる先で男達はにじりにじりと足を左右へと動かしていき、いつの間にか
そうして、目の前では目つきの悪い男が刀を構えたまま、血気を晒して
さしあたってと、
少なくとも取り囲んだ三人は、皆その
左右へと開いていった男達は
また挟み撃ちか、視線を巡らせながらそう考えた瞬間、
はたと反応して
その刹那、目つきの悪い男が体を乗り出したかと思うと、二人の間を一気に詰めた。
左右ではなく前方の男が差し迫ってきたことに、僅かばかりに心を乱し、咄嗟に、
跳びかかってくる男の体が通る、その道筋を予測して槍の刃先を滑らせると、大きく
胴体と槍の刃先とが、交差するその寸前、男は咄嗟に
それで瞬時に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます