93.荒びた古刹四
次の瞬間、追いすがろうと大きく足を踏み出していた男の胴体から首の上が消え去った。宙には男の頭がくるくると舞い上がり、見上げるほどに高くまで跳ね飛ぶと、弧を描いて落ち始めて、
頭の落ちる前、既に倒れ込んでいた男の体は、首元からトクトクと血を溢れさせ、死後反射で何度かびくりと体を細かく震えさせている。
「これで三。」
槍を振り払いながら、足先を地面に擦らせて回転する体の勢いを止めた
僅かばかりにたじろいだのか、ごくりと喉を鳴らす音が、男達の間で一斉に重なったように響いてくる。
脇に抱えた槍を手へと携えたままに、
軽く走って僅かに乱れた呼吸をふうっと一つ息を吐いて整えると、
その余りにも楽し気な笑みは、転がった死体を挟んで向かい合っているような
そんな
徐々に居並んだ男達の間隔が広くなっていき、次第と
「てめえ!なんだって俺たちのところに襲いこんできた!?」
それは彼らにとっては当然の疑問だった。寺に
「何故って。」
僅かに言葉を切って口元に指先を当てると、目を細め妙に色っぽい仕草でくすくと
「何故ってことはありますまい。貴方様がたも、自分達が何をしでかそうとしているか位は分かっておられるのでしょう?」
「ば……ばれたのか?」
男の一人が
「誰かが吐きやがったのか…?」
「もしや江戸のやつらに切られたのかも。」
「それにしたって、一人で来るか?他に何人か来てるんじゃないのか?」
そう言った一人の言葉によって、再び男達はざわりと浮き立ってしまい、きょろきょろと周囲を見回し始める。男達は明らかに気もそぞろになって、目の前で
腕を振るい、
「熱っっ!?」
直ぐに男は自らの体の異変に気が付いて、僅かに
「四。」
何とも無慈悲な響きの声で一言に呟くと、
それで男の命は終わりであった。
それだけで充分であった。
次の瞬間には、男の腹はぱっくりと斬り裂かれ、服ごとに大きな裂け目が開いて暗い
「あぶぁぁ!?」
自分が何をされたかを理解していなかった男は
目の前で鮮血と共に零れ落ちていく気味の悪い物体が自分の
そうして、男は我を失い涙をボロボロと流し始めていた。男は自分が最早助かることの無いことを理解していた。
そして助かることなどないが、すぐに死ぬこともなく、痛みと絶望で、その場で「ぉおおおお……」と唇を震わせながら、ただひたすらに
「こん畜生がっ……。」
傍らに立っていた男が、その悲痛な叫びに耐え切れず、刀を振り上げると、そのまま首筋へと振り抜いて首を掻っ切った。
未だに
ぐちょりと潰れる音がして、砂と混じりこんだ血と、体の中身が周囲へと飛び散り、辺りには糞尿と臓物の鼻の曲がる様な匂いが漂い始めていった。
「くっそが。」
残った男達は周囲を見回すのをやめて、
他に手勢が居るかもしれなかったが、少なくとも今はこの女に集中しなくてはならないと
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