92.荒びた古刹三
僅かに身を固めると、息を止めて
階段を登り切り、戸の前に立つと
よしんば、例え間違っていたとして、それは決して
斬ってしまって
目を閉じながら、
次の瞬間、
朽ちかけていた戸は、それだけでくの時に折れ曲がると、大きな音を立てて壊れながら堂の内部へと飛んで行った。
「な、なんだぁ!?」
複数人がてんでばらばらに叫んで、ごちゃりとした声が室内に反響した。
堂の中にいた人間たちは、不意に戸が蹴り開けられた音と衝撃とで何が起きたのか分からずに完全に浮き立っていた。殆どの男達は音に驚いているのみで、状況を判断するには至らずに、ただ
左半面の壁際に座り込んでいる男達が四、五人、右半面には六、七人座り込んでいて、その他に音に驚いてぱらぱらと立ち上がったらしき男が複数人目についた。そうして、部屋の一番奥には、良く聞かされていた容姿の男が一人。酷く細い
見つめ合った二人は、ほんの僅かな一瞬、互いに何故だか口元を緩めて笑みを浮かべ合っていた。
「いらっしゃいましたか。
「な……何だてめえは!?」
急に部屋へと押し込んできた
「この状況で、いまさら言うことがそれですか?」
刹那、
トスっと、軽く、低く、何とも味気の無い音が室内へと響いて、男の
「あ……がっ……?」
槍の穂先が、倒れ込む男の体に持っていかれる前に、咄嗟に
男の頭骨の中を槍の切っ先が滑り抜けると、その刃先に引っ掛けられたのか、ずるっと音がして桃色をした
ぷぴゅっと噴水の様に噴き出す鮮血に混じりながら、小さな脳のかけらが床へとぼとぼとと零れ落ちていった。くちゃりと一際大きな
倒れた男の背中を一瞥して、
「一。」
「なっ……!?」
仲間の一人が刺されたにもかかわらず、殆どの男達は驚きと混乱で呆けているようで、
僅か一瞬、腰を上げるのが早かった男へと向かって、
柄がみしりと綺麗に弧を描きながら
「あっ……?」
なにやら虚を突かれたように間の抜けた声を上げた男は、慌てて自らの喉を抑えようとして手を伸ばすが、その掌に勢いよく血が噴き出して、ぼたぼたと床へと垂れ落ちていく。すうっと血の気が失せて顔面を真っ青にした男は、それ以上何も言わずに、僅かに立ち上げかけた腰をへたりと座りこませ、そのまま床へと向かってどすんっと音を立てて体を倒れ込ませていた。
「二。」
倒れる男を一瞥もせずに呟きながら、
もう一人位はとも
そのまま部屋の外へと飛び出してみると、ここまで来て今更怖気づいたと感じたのか部屋の男達の中には途端に困惑して眉根を
「待てや!!」
と、
それも
このまま逃げるように見せてやれば、幾人か追ってくるだろう、それを一人ずつ始末すればよい。
そう考えて男達の声を殊更に無視し、思い切りに階段の一段目へと足を踏み下ろした
僅かに顔だけを振り返らせて目の端で階段を捉えると、追いかけてくる男達の中、一人だけが突出して地面へと降りかけているのを見つける。即座に距離を測り取ると、
右足を地面へと踏みしめさせるや、
「ふっ!!」
下腹部へと力を籠めると短く強く息を吐き切りながら、右脇に抱えていた槍を握りしめて強く腕を引くと、体躯を支点にして大きく
ひゅぅっと音を立てながら弧を描いて風を斬った槍の穂先は、煌めく刃先の光沢を細長く残影にさせて目に止まらぬ勢いで
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