91.荒びた古刹二
「総勢で中に何人いるかは分かりますか?」
問われて
「私が見ていた限りでは十と四人です。中に籠って出てきていない者がいることを考慮すれば、それ以上には居ると思いますが……。」
流石に人数が多いと感じたのだろう、僅かばかり
一方で
「それはそれは、また随分といらっしゃることですね。それ程にもいるのでしたら、まあ、存分に楽しめそうですねえ。」
想像通りではあったが、何ともズレたことを言う
「そんな悠長なことを言っている状況ですか?十と四人もいれば、軽い要塞のようなものではありませんか。」
「なに、これぐらいで丁度良いのですよ。まあ考えても見てくださいな。深刻になったとして、相手の数が減りますか?」
「そりゃ、減りはしませんが……。」
「だからですよ。こう言うのは楽しんでしまうぐらい良いのです。」
その言葉自体の内容にはどこか捨て鉢なような響きを感じさせながらも、言うてる
「そんな気軽に言うてますが、何か策でもあるのですか?」
「策ですか……突然襲い掛かって、斬るぐらいですかねえ。」
ふっと笑みを浮かべて、策とすら言えない繰り言を口にすると、すっと立ち上がって足の筋を解す様に、体を一度くっと背に向かって反らさせる。何度か背伸びをして軽く一度その場で跳ねてみると、それで準備の運動は終わったのか、
「それでは、ちょっとばかり行って参りますよ。」
「本当に大丈夫ですか?」
心配そうに見上げる
「な、何するんですか。」
「心配してくださるんですか?」
「そりゃ、当たり前じゃないですか。無事に帰ってきてください。」
「ふふっふ。」
楽しそうに鼻歌を口遊みながら、
「なんなのですか?」
突然に頭をいじくりまわされて困惑した
「
「褒美ですか?謝礼なら私の懐から少しばかりは……。」
「そう言うのではなくってですね、一晩中撫でさせていただいたりとか。」
「撫でっ……。って、何を急に。」
「何って髪をですよ。」
「あ……か、髪……ですか。いや、でも一晩中などと……楽しいのですか?」
「楽しいですよ。ええ、きっと楽しいです。」
珍しく真面目な顔をして
「どうですか?」
「いや……しかし、それでも一晩中などと言うのは流石に……。」
「んー……まあ、一瞬でも宜しいですよ。」
撫でていた髪からさらりと掌を下ろして、
「え?」
「その代わり、髪を撫でるのではなく、口を吸わせていただけるならですが。」
「口をっ……?」
一瞬で顔を赤くして、
「それは……あの……。先日のあれですか?」
唇へと指先を当てながら、どこか思い出す様に潤んだ瞳で躊躇いがちに
「ええ、この前のあれですよ。」
「ぅ……。」
言い淀んで小さな声を漏らし、どう反応して良いのか分からないと言った雰囲気で視線を狼狽えさせた
「思い出さえておるのですか?」
「思い出しておりますよ……。」
「駄目ですか?」
言うて頬へと触れていた掌を、
「駄目ということは……。」
おずおずと指先を自らの頬にまで持ち上げた
はっきりとしない
「駄目と言うことですか?」
「……駄目ということはありませんが。その……本当に少しだけですよ?」
「ほう……。」
承諾されたのが意外だったのか、
「それでは、
からからと今にも笑いだすかのような軽妙な口調でそう言うと、顎へと掌を当てて
槍の穂先に鞘として被せていた革を取り払って、適当に放り投げると、
途端、一瞬の内に、柄の折りたたまれてた槍が一直線の長い棒状へと組み上がっていた。その槍の柄は先ほどまで折りたたまれていたとは分からぬほどに、切れ目も見えなくなり、もとよりの真っすぐな棒であったようにしか見えなかった。
穂先を地面へと
堂の戸へと続く数段の階段へと
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