87.結城と石動二十一 - 襲撃直前一
「嫉妬……と言うわけではありませんが、そうあちらこちらへ、ふらつかれましては、私なんぞやはり連れとして要らぬのではないかと思えてしまいます。」
どちらかと言えば、それは不安を元にした言葉であり、
それを
「大丈夫ですよ。
「それは……。」
と、言いかけて、
「
そう言われて、
「二人だけのが良い等と言われた方が、嬉しうございましたがねえ。」
それは
「何か言いました?」
「なんでもありません。」
肩を澄まして
どうせごろまたなにか、自分のことを抜けているなどと言われたのだろうと、
「それで
「ええ。まあ。聴けましたよ。ねえ
「はい?」
「
「え?成瀬様のことですか?」
考えてもいなかったことを突然に
「何故ですか?先ほどの話では、
「そこですよ。昨日に屋敷で話を聞いていた分には、成瀬さんは確かに
「ああ、そう言えば、確かに屋敷では
「まあ、あの屋敷の時にも思うてはおりましたが、あのご老人は大抵に腹の色の見えぬ方ですよ。そう言う手合いは、下手に信用すると痛い目を見てしまいます。」
ただ何度も成瀬とは相対した
「なによりも、そこもと達からすれば、依頼主は一番信用してはならないと言う言葉があります。考えても見てくださいな。人斬りに何かを頼むなんて人が、良い人なんてことがあるはずありませんでしょう?」
「それは……。」
言い淀みながらも、言われてみてしまえば、確かにそうかもしれないと
* * *
十九
幾つかの雲を滲ませた青空を背景に、
遠く蒼天に包まれた名古屋の、その街の一角にある宿の庭で、随分の年輪の重ねていそうな
長着に袴を履いた格好から、袖を脱ぎ捨てた
「ふぅぅ――」
肺腑の奥から
蒸し暑い日差しの中ですら、肌は色の濃い白湯気を舞い立たせ、一層の湿り気を帯びていった。
二度振り切ったはずにもかかわらず、その素振りの音は一つながりの長い切り裂き音にしか聞こえなかった。
それ程に、
僅かに呼吸を乱し肩を揺らし始めていた
人探しを始めた初日、甘味処で
ともかくもと
「
申し訳なさそうにしながらも、そうはっきりと言われてしまうと、言わていることが確かにその通りであるがゆえに、
独りで行動させるのは不安でもあったが、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます