86.結城と石動二十
「おに……藩主と仲が悪いっていうのは良く聞きます。あとは商屋から賄賂を受け取っているとか、米相場を弄って利ザヤを得ているとか……そう言うお金に汚いって噂ですね。」
良くある話ではあった。商売の繁栄とそう言った賄賂とは表裏一体の所がある。賄賂を効くからこそ、商売人はお上の言うことなぞ気にする必要もなく伸び伸びと商売が出来て経済が回る。経済が回るから金に余裕が生まれ、至る所に賄賂が蔓延する。良い悪いはあるが、世情と言うものはそういう所があった。
むしろ
それは成瀬の家で老人本人から聞いたことと合致し、街で噂になると言うほどであれば、決定的に仲が悪いのだろうと感じさせる。
ふむっと唸って、考え込んでいる
「あ、でも、こういうのってやっかみが入ってると思いますから、そんなに気にしない方が良いと思いますよ。」
「そういうものですか。」
どこか慌てた調子の
そうして手にしていた団子の最後の一玉を口に入れると、
「さて、団子も食べ終わりましたし。そろそろ私たちはお暇いたしましょうかねえ。ねえ
「え?」
「えっ。」
「もうですか?私はもっとお話ししたいんですけれど……。」
「ちょいと用事を思い出しましてね。多少急ぐこともございますしね……。ねえ、
そう言って
「
と、小さく言って頷いた。
「まあ、そう言うことでございますから。ここでお
愉快そうに肩を揺らして
「お話し楽しうございましたよ。」
軽く笑みを浮かべながら
「ああ、そうです。そうです。最後に
そう言うて
「なんだ?」
一層に顔を顰めさせて怪しんだ表情を見せる
「
耳元で
「き、貴様はっ!一体なにを言い出す!?」
しどろもどろになりながら、慌てて食って掛かってくる
「いえ。何。それならそれで、私も他人の恋路を邪魔するほどの
そう言って
そんな彼女の態度に
「それでは行きましょうか。
「あっ、ちょ、ちょっと待ってください。」
そんな二人の姿を、
「また、お会いできますかね?」
名残惜しむ様に訪ねてきた
「そうですね……
さぱりと最後にそう言って、
茶屋の外へと出てみると、往来は店に入る前よりも一層に賑わっているようで、どこもかしこも、わいわいと騒々しく行き交う人の話し声が交じり合い、濁った音となって二人の耳へと煩わしく伝わってくる。ただそれが、今の二人にとっては、互いの話を掻き消してくれる都合の良い雑多さともなっていた。
二人が往来の人波の間へと入り込むと、
その表情は先ほどまで
「あの……
尋ねてみると、
「ええ。あれで充分でございますよ。」
「で、どうでしたか?」
「いやはや、二人とも随分なお美人様でしたねえ。」
惚けて言う
「ふ、で、ど、の?」
と、わざと仰々しく名前を呼んで、殊更な笑顔を浮かべながら、じっとその顔を見つめた。
それで
「いえ、なに、ただの感想でございますよ。彼女たちとどうなりたいなどとは思うておりません。」
「それは本当ですか?」
「本当ですよ。先もそうでしたが、
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