84.結城と石動十八
「
問われて
少なくとも「密書を運んできた」などと素直に理由を答えることはできようはずもなく、何と言うべきなのかと
仕方ないと
「言う通り、こちらには昨日初めて来ましたよ。実のところ、私は腕試しに国々を巡っておりましてね。ここに来たのは、その
素知らぬ顔をして
事実、腕試しをしていたと言うのは嘘ではないし、
「腕試しですか?いわゆる武者修行とか、そう言うものですか?」
「そうそう、そう言うものでございますよ。見たことはございますかね?」
「見たことがあるというか……、取り締まったことがありますね。」
「おや……。」
僅かに驚いて
「
「それはそれは、困りましたねえ。」
「まさか、すでに果たし合いをしたとかじゃないですよね?」
「しておりませんがね。そうでございますか。それでは酷く退屈な滞在になりそうですか。」
溜息交じりに
「退屈で良いじゃないですか。」
と呆れ気味にそう言っていた。
騒動に巻き込まれてきた
「こちらの
「へえ、一緒に旅ですか……。」
どこか感心した様子で
「局長。餡子が口についてしまっていますよ。」
するりと
「す、すみません……。」
自分が粗相をしてしまったという恥ずかしさからか、
「あっ、もったいない。」
小さくそう声を上げると、
「うえ!?」
不意に、指先に感じる柔く温かい感触に驚いてしまって、
びくりとして体を硬直させながら、自らの指先に吸い付いてくる
「あ……あの……きょ、局長……?」
酷く緊張した
そのおずおずとした言葉に気がついたようにして、指先へと吸い付いていた
「すみません。もったいなくて、つい……汚かったですよね?拭いちゃいますから。」
「い、いえっ!そんな、お気になさらずに!!大丈夫ですから!」
慌てて酷く裏返った声を出すと、
「そうですか?」
「は、はいっ……大丈夫です。」
不思議そうな表情で見上げる
「それで、さっきの話の続きなんですけど。二人で色んな国を巡ってるってことですよね?」
「そうですね、まあ……。」
多少なりに
「自由に気の向くまま、旅するなんて楽しそうですね。」
「楽しいですか……そう思われますか?」
「そうじゃないんですか?私なんて生まれてからずっと地元か、名古屋の街ぐらいしか行ったことが無くて、色んなところ見て回ったら楽しいんだろうなって思うことがあります。」
心底にそう思っているようで、どこか羨望と言うべきか、羨ましさの混じった
「色んな所に行くのは物珍しさはあるかもしれませんけれど、楽しいかと言われれば……どうでしょうかね……。苦労の方が多い気もしますよ。それに道中には様々な危険がありますから。」
その言葉の端々には随分と苦々しさを感じさせる響きがあり、
「そんな大変なものなのですか?」
「大変ですよ。少なくとも、
どこか嫌味を含ませて
「
素朴な疑問と言った様子で
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