79.結城と石動十三
すぐに
途端に、
「っ……。」
虚空を滑り突っ込んでくる
僅かばかり
無言のままに頬を撫ぜながなら、
「なんなんですか?」
「貴様は……どうにも危険な感じがする。」
危険かと言われれば、それを否定出来る言葉を
「美人に睨まれるのは、中々に嬉しうございますがね……。」
予測していたいのか、
一切に笑みをも見せずに、二人は視線を交わらせた直後、拳を握りしめて互いの顔をへと振り抜いていく。空を斬る音もせず、二人の間を拳が行きかって、それを互いに寸でのとこで躱していく。ふっと一瞬、
「――ねえ、
瞬間、
「あれ?どうかしました?」
「いえ、なんでも。」
拳を隠しながら、
「それで、どうかなさったのですか?」
平静を装って
「あ、ちょっとこの局長さんとお話ししてて、折角知り合いになったのですから、どこか茶屋で甘い物でも食べながらお話ししませんか?ってことになりまして。
「茶屋で甘いもの、……でございますか。先ほど田楽を食べたばかりですのに。」
「そうですけど、塩っぱいものを食べると、甘いものが食べたくなりませんか?」
「わからんではないですがね……それで、そちらの方も?」
「
問われた
「局長。我々は見回りの最中です。そんなことでは他の隊員に示しがつきませんよ。」
それは子供に言い含める世話役のような言葉ぶりであった。
「駄目……ですか?」
悲しそうな表情を浮かべて、少女はじっと
その表情を見るや、
じいっと少女は
「
少女の声は甘く儚く、何とも切なく
それで
「全く……ちょっとだけですよ……。」
「ありがとうございますっ!」
嬉しそうに少女はその場でぴょこんっと飛び跳ねて喜びだす。それを見て、
そんな二人を眺めながら、
「これから飛脚さんを探しに行くって仰っていたのに、こんな悠長なことをしていて宜しいのですかねえ?」
「まあまあ、
「それに?」
「今後も
「なるほど、なるほど。それは無駄と言うものですね。」
しれりと言いきった
「騒動を起こす張本人が、そう言うことを言わないでください。」
そんなことを、ひそひそと話していると、二人へと向かって少女が首を傾げてくる。
「どうかしたんですか?」
「あ、いえ。何でもありません。それより、
「そうなんですか。それなら良いところがありますから、着いてきてください。」
そう言って歩き出した少女の後をついて往来を進んでみると、平屋のこじんまりとした茶屋へと辿りついた。周囲では珍しい一面の瓦屋根が黒々と光沢を見せて、板張り壁に塗られた漆喰の塗りものとの色合いの対比が綺麗映えていて、屋根から地面までに垂らされた紅い無地の垂れ幕が忙しない往来の中で随分と華やかに人々の耳目を寄せ集めていた。
店の外にまで備えられた椅子には客と思しき女性達が所狭しと座っていて、幸せそうな表情を浮かべている。
「ここのお店が美味しいらしいんですよ。いつも見回りの時に見かけるんですけど、立ち寄れたことが無くって。」
今日、この機会に立ち寄れることが随分と嬉しいのか、ちょっと跳ねた調子で言いながら少女は茶屋の中へと入っていく。茶屋の中へと足を踏み入れてみると、その中には結構な数の男が椅子に座り込んで煎茶を喉へと流し込んでいた。そもそも茶屋と言うのは街道の旅人へ、喉の渇きを満たすための茶を饗するのが始まりであり、街中にあっても仕事の行き帰りの喉の渇きを満たしていく男の客が多かった。それが甘味を出すような店ができるようになって女も立ちよるようになったのは最近の出来事ことと言って良い。だから、こういう手合いの店は珍しかったが、逆にそれが物珍しさを誘って町人を多く引き寄せていた。
店内を眺めてみれば、男達の居並ぶ中に、ちらほらと煎茶の入った湯呑を手にする女の姿も見えてくる。
くんっと鼻を利かしてみれば、周囲には煎茶の
「注文はありますか?」
「えっと、では茶を四つと……。」
少女が問われて、他の三人へと目を配らせる。
「団子。」
「大福ください。」
「私は団子を。」
「大福でお願いします。」
めいめいに思い思いの注文を伝えると、女給は「はあい」と何とも間の抜けた声を上げて、店の奥へと注文を持って帰っていった。それで一区切りがついたかのようにして、
さしあたって尋ねようとして、ふと
「とりあえず、名を名乗りあっておきましょうか。私は
「私は
多少にはにかんで
どこか大人ぶったような芝居がかった様子で、少女は胸を張って口を開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます