75.結城と石動九
「はい、なんですか?」
「その探している男と、お前さん達ってのはどういう関係なんだい?俺もね。あんまりにも変な事件とかに関わりあいたくはねえもんだからさよ。」
問われて
「お兄さん。それは聞くだけ野暮っていうものじゃないですか?」
緩く甘く、僅かばかりに
途端、男はへっと鼻を鳴らして、不味いものでも食ってしまったかのように顔を渋らせて、しきりに頭を掻き始める。
「いや、そりゃまあ。女が男を探してるんだから、理由は仇討ちか色恋かぐらいしかねえか。」
そう言う時代ではあった。
そもそも旅をすると言うことには多大な危険を孕んでいるがために、女だけで旅をしているとなれば、余程の理由があると思われるものである。大抵は伊勢参りだの行脚だの宗教にまつわることが多いが、仇討ちで家を飛び出す女も多く、そして、それらに次いでくるのが駆け落ちだの
大概がそんなのであるから、田楽売りの男も、そう言うものだろうと勝手に得心したのだろう。
「そうさなあ……人の顔を見てるっていうなら、
「あの……それは、どういう方々なんです?」
「ああ、そいつらは
「流石に駕籠屋が何かは知ってますけどねえ。その方々は顔が広いんですか?」
「なんというかね。大体からして、
ふむっと唸りながら、
「けほっ…けほっ…。」
「大丈夫かい?」
「だ、大丈夫です……ええっと、確か与次郎さんと弥太郎さんですか?」」
「おいおい大丈夫かよ。名前が混じってんぞ。
「
「いやあ、こっちも随分と食べてもらって助かったよ。朝っぱらからこんなに売れるとはねえ。」
体を屈ませたまま、田楽売りはちらりと片目の視線を
余りにもの勢いで一気に食べきったものだから田楽売りは多少なりとも目を白黒とさせながら、僅かに呆れた心持で
その椀の中はいつの間にやら空になってしまっていて、山盛りに持ったはずの田楽だねは綺麗さっぱりと
「あ、えっと、お代わりで?」
慌てくって田楽売りが尋ねてみると、
「もう少し食べたくはあるんですがね、
言われて田楽売りが
「私のことならば……まだ
「ま、そこまでしていただくほどではありませんよ。探す方が優先でしょう。」
「そうですか。まあ、そうですね。」
そう言いながら
「ごちそうさまでした。」
そうして、「うん」と手に取った椀を箱の上へと運びながら、二人へと向かって体を向けなおすと、ついっと腕を上げて往来へと向かい指をさした。
「
指を伸ばして田楽売りの男は往来をずうっと先へと指し示すと、その後に川縁の道を指さしてくねくねと左右に揺るがして見せた。その指の示す先を二人して眺めながら、ほうっと
「左様でございますか。いや、道案内までいただいて、何ともありがたいものです。」
「なに。こんな時分にいっぱい食ってくれた礼と思ってくれればいいよ。」
ひらひらと手を振って、田楽売りは謙遜するそぶりを見せるので、
二人が立ち去ろうとすると、田楽売りは箱の中から柄杓で水をくみ出して、食べ終わった椀の中に注ぎ込んで洗い始めていた。何とはなしに、最後に軽く
そうして先に歩き始めていた
追いつてきた
「それで、次は
「まあ、そう言うことです。見つかると良いんですけれどね。」
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