71.結城と石動五
「……互いに言うてる意味が、大分にずれている気もするんですけどね。何というか、
「言うてしまえば、似たようなものですけどね。貴女様は食べてしまいとう御身体をしてございますし。」
「えっと、た、食べるですか……?」
「ああ、いえ。例えでございますよ。出来るなら口の中にいれてしまいたいと言うだけです。」
「口の中に……?どうして……?」
むしろ一層に
「分からぬなら、分からぬで良いですよ。貴女様のような
「またそう言うって、
かまととと言うのは、
ただ
「それで
問われて、ようやくそこで気分が変わったのか、
「ええっと、そうですね。店でも良いんですが、なるべくなら外で食べましょう。」
「外、ですか?外とは?」
「まあまあ。説明するのも
どうせ、何を説明したとしても、
名古屋はそれなりの町人街であるために、往来を進んでいっても、基本的には道の左右には家が続き、どこもかしこも人の気配で溢れている。道も仕事に向かう人々で溢れているが故に、歩いているだけで様々な人の顔が視界の中に、そして無数の会話が耳を伝って頭の中へと入ってくる。それを全部とまでは言わないが、なんとはなしに聞き耳を立てて
あまりにも騒々しいからなのか、
ただそれも、大きな往来の一番の繁華を過ぎてしまえば、次第と人が行きかう数も少なくなり、騒がしさは鳴りを潜めていく。そのまま、人の少なくなった往来をずんずんと進んでいくと、丁度街の中央を流れる小さな川へと行き当った。川と言っても、田舎の川の様に左右に河原の伸びたような悠長なものではなく、両端に石垣で護岸され水運のために整えられた人口の川であった。見栄えを整えるためなのか、両岸の土地を固定するためのものなのか、石垣によって出来た河岸の上には、川の流れる方向に沿って一列に桜や
「
「ええっと……多分、ここら辺に居ると思うのですが。」
何かを探しているのか、
「居ましたね。
言いながら
そう言う風体をしている人種を、少なからず
「探していてたというのは、
彼らは
男の傍らにある様な背の高い箱の中には、それぞれに料理やら食材やらが入れられていて、それを担いで往来を歩きながら、箱に入ったものを売りさばいていく一種の行商の類だった。商いをする物品は人によって種々様々に違い、箱の中に単に野菜やら生の食材を入れて売り歩く者もいれば、七輪と鍋まで担ぎ込んで、
先ほど見つけた男の箱には『
後ろ手に掌を重ねて、
「そこなお兄さん。幾つかくれませんか?」
話しかけてみると、ぼんやりと佇んでいた男は、パッと顔を上げて急に商売人らしい気さくな表情を見せてくる。
「へい。何にしましょう?」
「何にしましょうって、何があるんですか?」
「そうですね。
つらつらと流暢な言葉で、そこまで一息に言った男は僅かに息を吸って、さらに言葉を続けていく。
「昆布に厚揚げ、はんぺん、
完全に言い慣れてしまっているのだろう、最後の一言まで一切も詰まらずに朗々と言いのけた男は、そうして「もう一度いいやしょうか」等と付け加えた。話を聞いていた
「ええっと、じゃあ、私は豆腐とこんにゃくに、あと竹輪と。それでお願いします。」
「へい。豆腐、こんにゃく、竹輪ね。」
「
ふっと振り返ってきて、顔を覗き込ませてくる
「そうですね。では大根、はんぺん、
「あいよ……って、その声、あんた女かい?」
箱へと向かって屈みこんでいた男がひょいと顔を上げて
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