70.結城と石動四
言うや、
何重巻きかになっていた帯が外れると、さらに中に巻いた腰ひもの結びをさっさと解いてしまう。
途端、着物の重ねが緩まることで、裾がふわりと揺らいで、
「おや、脱いでしまうのですか?」
何のためらいもなく、着物を脱いでいく
「こんな長着では動きづらいですからね。人を探すのには向いていませんよ、どうしたって走れやしない格好ですから、それじゃ困ることの方が多いじゃないですか。」
「確かに、昨日も裾を踏んで転げそうになってましたからねえ。」
「……あれ?私、昨日転びましたっけ?」
「それも憶えておりませんか。」
幾分か呆れる心持で
「昨日、本当に何があったんですか?」
教えてくれないだろうとは思いながらも、
「面白いから教えませんよ。」
と、首を振るった。
「全くもう、
仕方ないと、それ以上尋ねるのはやめて、
そこから更に繋ぎ止める紐を白い指先でさらりと解き、着物の下に纏っていた
その肢体のくっきりとした曲線を眺めて、
「
僅かに非難めいた口調で
「見たって減る物でもありますまい。」
「だって恥ずかしいですから。」
「どうせ前の宿で裸を見せ合った仲ではありませんか。」
「そうですけど……。
「分からないではないですがね。肌に張り付く皺が、実に
「……やっぱり、
「はいはい。」
軽く
最後に部屋に置かれている
ただ、そこに幾つも手間をかけても詮方ないと
準備を整えて、二人して部屋を出ると、そのまま宿の入口から往来へと向かう。
早朝ながらにも、往来には仕事場へ向かうのであろう男たちが行きかい、既に活気の良さげな雰囲気が溢れていた。この時間に仕事へと向かっているのは大抵が店子であり、商店で働く者達であった。そうして、もう少しすると大工などの職人たちが現れ始め、街は一層に活気づいていくはずである。そんな大工たちは逆に今が丁度朝飯時なのか、方々の家で
「それで、
「そうですね。当て、と言うほどのことはありませんが、やってはみますよ。」
「ほほう、一体どうするので?」
「まあ、差しあたっては――。」
「差しあたっては?」
「適当に歩いてみましょうか。」
「棒にでもあたろうっていうんですか?」
「
気楽に言いながら、
額を一つ掻きながら、
「適当にと言うても、流石に何かは探して歩くのでしょう?」
「まあ、探すには探すのですけれど……。さて、何から探しましょうか。」
「何から等と……。何にせよ
「えっと、何と言いますかね……
僅かに筆は眉を
「それはまた、何とも禅問答のようなことを言いますねえ。」
「そう畏まったものではありませんが……。急がば回れとか言う言葉の方が近いでしょうか。そうですね……先ずは食べ物から探しましょうか。
「お腹ですか?」
人探しの話をしていたのにも拘らず、急に食事の話を振られて
「ま、空くには空いておりますよ。そろそろ
「良かった。私も朝から何も食べてなくて、お腹が鳴りそうなんですよ。」
冗談めかした口調で言いながら、
「食べるのは良うございますがね。それが人を探すのに役に立つのですか?」
「立ちますよ。まあ、ここは一つ私に任せてみてください。」
目を軽く閉じながら
「そうですか。しかし何分、
言われて
「私の言うことって、そんなに信用無いでしょうか?」
「嘘はつきますまいが、能力に関しましては信用出来るような出来事が今までにありませんでしたので。」
「むう……、じゃあ見ててください。この件に関しては、ちゃんとやってみますから。」
「見ては居りますよ。ずっと。
どこか喜色を含ませて
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