65.闖入者三
やはりもう随分と酔いが回っているのか、
その姿は安全に酔っ払いのものであった。
なんとも警戒心もなく間の抜けた、そして随分と稚気のある彼女の表情に、思わずも
床に投げ出されて小男の腕へと触れると、その肩の付け根へと視線を向けながら、僅かに動かして見せる。彼の腕が関節の根元から動くのを確認して、
「まあ、折れてはいませんね。外れただけですか。」
そう言うや、失神している小男の体を引き起こし、上半身を畳の上へと座りこませると、腕を掴んでにじりと指を食いこませるほどに力を籠めた。
みしりと男の腕の骨が軋む。
瞬くほどの間だけ息を止めると、
ゴキリ――
深く鈍い音が響いて、小男の骨が関節へと
筋肉を無理やりに引き延ばされ、骨と骨とを強引にぶつけられた痛みのせいからか、泡を吹いて失神していた男は、意識の無いままに二三度体を強く痙攣させる。意識が戻ったら恐らくは随分と痛むだろうが、それでも関節が外れたままよりはマシだろうと、
「さて……と。」
どしんっと宿の建物ごと揺れるかのように、大きな音が響いて、板張りの廊下の上を二人の男の体が転がっていく。
床の上に倒れ込んで、「うぅっ」と呻く二人を、筆は足で更に少し転がして、なるべく部屋から遠ざけていった。
「まあ、明日の朝までは目を覚まさないでしょうけれど。」
このまま放置しておいて何かあったとすれば寝ざめは悪いが、今いる宿はそれなりに名の通った宿ではあるから、どうせ従業員の誰かしらが見つけて面倒を見るだろう。これが安宿であれば、身に着けている物は全て剥がされ、素寒貧で風邪をひきながら目覚めればまだ増しと言うような目に遭うはずだった。
ふうっと溜息をついて倒れている男達から視線を外すと、彼らに触れていたところを、まるで汚物が付いたように
部屋へと入り襖をきっちりと閉じて視線を中へと向けてみると、窓辺の畳の上で寝転がっていたはずの
「ひっく……。」
不意に
どうにも頬を真っ赤に赤らめて、目を半開きに虚ろな表情を見せているあたり、酔いは全く醒めてはいないようだった。
「まったく。酒は飲めるだのと言っておいて、こんなありさまですか。」
頭を掻きながら、
「どうちたんですか?
「ふらふらしているのは貴女様ですよ。そんな調子で大丈夫ですか、と尋ねたいぐらいなのですがね。
「ええっとぉ……何がです?」
「酔いですよ。貴女様、
頬へと触れた
「そうですね……。はい。酔っていますよ。……多分。きっと。酔っているんだと思います。」
くすくすと、そしてすうっと目を細めて面白そうに
「でも、大丈夫ですよ……。意識はしっかりしておりますから。」
「大丈夫そうに見えぬから、尋ねておるのですがねえ。」
他人からどう見えているのか自覚が全くないのだろう、
仄かな紅色をした唇の狭間から、舌先を伝って、喉の奥へと滴が流れ落ちていくと、
「ひっく……。」
喉元をコクリと鳴らして、再び
ふふっと、自分のしゃっくりを面白がって、
くねりと身を捩らせて笑む姿は、幼さを残す顔立ちながらにも、妙な
「そういえば
「はい?何でしょうか。」
酔った勢いで心の内へと溜めていたものでも言い立てられるのだろうかと、思わず
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