64.闖入者二
「俺たちが気持ち良い目にあわせてやるって。なあ、良いだろ?一緒に楽しもうぜ。気持ち良くしてやるからよ。」
無造作に近づいてきた小男が、
幾分と酔っていたせいもあってか、
その表情が、男の加虐心を煽ったのか、小男はやにわに
「わわっ?」
ぼんやりとした顔で桔梗が僅かに慌てた声を漏らす。
くっと腕を引っ張られて、
「貴方様がたねえ……。」
咄嗟に
途端、
「あんたは、こっちだよ。俺が相手してやるから、こっちにきな。」
唾液に
その腕に男は力を込めたつもりではあったが、
窓の桟から微動だにもせず、
「おう……?」
据えた目をさせて男を睨み付けた
「まったく……。」
吐き捨てるように言いながら、
「貴方様、ちょいと頭を下げて貰えませんか?」
「ああん?」
「頭を下げてくださいと言うておるのです。」
冷淡な声で言うた
途端、
ミシィ――
と、骨の軋む音がしたかと思うと、男の膝頭へと、
「いっっ!!?」
唐突に訪れた痛みに悲鳴を上げた男は、慌てて体を屈みこませ、情けなく顔をゆがませる。
かくっと膝頭が抜けるように足を曲げた男の体は中腰となり、丁度
「てめっ――」
「まだちょっと高いですかねぇ。」
拳を握りこむと、
だらしのなく贅肉の付いた体の中心に、
「うげぅっ!?」
堪らずに呻き声をあげた男は、拳に押し出されるように僅かに吐瀉すると、強かに体を痙攣させながら
立って居られずに膝を畳へとつけて、腹部を抑え込みながら背中を丸めた男は、苦悶の表情で
それは何が起きているのか分からずに、ただひたすらと痛みで錯乱したような顔であった。
そしてその顔は、
「そう、これぐらいで丁度良うございますね。」
「はっ?」
と、僅かに戸惑った声を上げた男の顎へと向かって、間髪も入れずに
「はう?」
くんっと顎が揺れると、梃仕掛けの振り子めいて、男の頭蓋が勢い良く振られた。
頭骨の中で、男の脳みそが大仰に揺れて、振り動き、脳脊髄液を泡立たせながら骨壁へと何度もぶつかる。
途端、男の視界はくるりと回転し、体を崩れ落ちさせていた。
床に倒れ込むまでの刹那の中で、男の意識はくるくると床と天井とが揺れる世界を何万回と体験していく。その永遠とも思える時間が恐ろしくて、声にならない息を漏らして、いつの間にかその意識を遮断させていた。
真新しい畳の上へと男の体がぶつかり、どすっと鈍い音を響かせて、床が僅かに上下へと揺れた。
酷く冷淡な目つきで、
忌々しい男の頭を叩いたことで、
「
言いながら、急いで
「ふぁい……?」
慌てた
慌てて向けた筆の目に映ったのはどこか奇妙な様子であった。
立ちすくむ小男の右腕へと、蛇の様に
右掌の中指の先から、まるで捩じらられた布かのように
腕十字と足四の字の混じったような絞め技であったが、それ以上に
するりと、
「うくく……。」
首に絡みついた足を振り解こうと、小男は左腕を伸ばして、
床が震え、どしんと人一人倒れる音が大きく響く。
「ぎぅ……。」
次いで、男の喉から狭い器官から絞り出されたような奇妙な音が漏れた。
どうやら、それで小男は気を失ったようで、張りつめていた全身の筋肉が弛緩していくのが目に見えて分かる。
腕に絡みついていた
小男の腕は背中に向けって真っすぐに伸び、掌の関節だけが捩じられて、
てっきり、
「
驚いた口調で
「えぇ~。なんですか。体術はそれなりに自信があるって、旅の途中で言いませんでした?」
「確かに、そんなことを聞きはしましたがね。まさか信じられやしませんでしたよ。」
「むぅ……。なんでですかねえ……。」
不満げな声を上げて、
「ぐぶぁうっ!!」
床に伏せていた小男の口から、鈍い声が溢れ出た。
意識もないままに小男はびくりと大仰に体を震わせた。
体の下で男が跳ねたことに気が付いて、
「あっ……やっちゃった……。」
慌てて
酔いが回っているのか、
そのふらついた勢いが余って、極めていた間接に体重をかけてしまったらしい。
瞼を半開きにして、
小男はといえば、
男共にとっては何とも悲惨な状況ではあったが、兎も角も、
多少なりに酔ってふらついている
「
「え……?あ……はぁい。」
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