59.酔いて二
酒は嗜めるかと問われて、
「お酒は……飲めないこともないのですが、えっと、そのう……。」
言い淀んで
「どうか致しましたか?」
「あの。私が酔ったところを、その……無理やりに押し倒そうとか考えたりしてませんよね?」
随分と信用されていないことと、何ともずれたことを言われるのがどこか面白くて、思わず
「そんなこと致しませぬよ。」
「
「ああ、いえね。余りに可愛らしいことを言うものですから、思わず。」
多少なりに皮肉にも聞こえそうな言葉だったが、可愛らしいと言う言葉にだけ反応して頬を染めるあたりが
「また
「なにを仰いますか。
言われて
「ふふ、そうやって恥ずかしがる
「やっぱりからかってるんじゃないですか。もう……冗談はやめてください。言われてちょっとだけ嬉しくなるのが余計恥ずかしくなります。」
「嬉しいのですか?」
「そりゃ私も人間ですから、可愛らしいなんて言われれば、多少は嬉しくなりますよ。」
「そうですか。まあ、
軽い口調で
「何度もそう騙されませんよ。どうせ私なんて、そんな可愛らしくありませんから。」
そうやって意地でも認めようとしない
「本心なのですがねえ。」
本心ではあった。本心ではあったが、多少にからかう心持もあるにはあった。
だからこそだろう、
「
と、ぴしゃりと言いかえされてしまい、
「まあ、それはともかくも、飲めるのでありましたら
そう言って
「一杯だけでしたら……。」
「ええ、それでようございます。」
僅かに躊躇った後、
小さな御猪口の中になみなみと酒が注がれていき、最終的には口から溢れそうなほどになった。
「わっ……とと、入れすぎですよ。」
「一杯だけと仰りましたので、せめてこれぐらいはさせていただきたく。」
にやっと口角を上げてそう言うと
「もう……。」
多少非難がましく声を上げ乍ら、こんもりと御猪口に注がれた酒を眺め、
少しばかりは酒も飲んだことはあったが、本格的に酔ったことはなく、ここまで酒を盛られてしまったことに、多少なり不安な心持となって
今にも中身が零れてしまいそうな御猪口を掌の中に抱えると、
ちゅっと小さな音がして、
二割ほどが、口の中へと納まったかと思うと、ゆるりと御猪口を唇から離して、
途端に彼女の瞳はとろんと虚ろになり、血色が増したのか頬から耳先にかけて顔の赤らみが一層に増した。そうして少しだけ辛そうに「んくっ……」と喉を鳴らしていた。
その吐息に、なんとも
「何と言うか……これは、きついお酒ですね……。」
「そうですか?」
「飲んだところから喉が焼けるような感じがしてます……。」
再びくっと喉を鳴らすと、何か気になるのか、
「まあ、
言いながらも、
「こんな酒精のきついお酒を、良く
「なに、限度はわきまえておりますよ。」
「そうなのですか……。」
どこか目を
最初の一口だけでも随分と酔った見えるのにも拘らず、そんな一気に飲んで大丈夫なのかと
ただ、それで景気をつけたかのように目を据わらせて、彼女は不意と口を開いた。
「
「なんでしょうか?」
「いまさらなのですが、本当に
問われて
「どうしてそんなことを問うのです?何か嫌でしたでしょうか?」
「えっ?いえ、そう言うわけでは……。むしろ勿体ないぐらいで……。」
ぶんぶんと音が鳴る勢いで
「
言いながら
胸ばかりは不格好に大きいが、全体的に肉付きは良くなくて、背も低い。何とはなしに顔へとも触れてみるが、唇は薄く眉も細くて、髪も長くない。何もめぼしいところがないと、彼女自身はそう思っていた。
だからと言って、何かしら役に立つようなことが出来るとも思えない。
旅の最中も、
「先の
酒に酔った勢いに任せて
「
「ですが、実際そうではありませんか?貰えるはずだったのは大金なのでしょう。」
「どうですかねえ……。」
継ぐ言葉に悩んでしまい、
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