8.強襲二
ふっと、
僅かに
一瞬、
正確には、
その
ふっと、何かが宙へと舞った。
くるくると回転しながら部屋の中へと飛んできたそれは、液体を振りまきながら放物線を描いていく。
ごとんっと床へぶつかる鈍い音が響いた。
咄嗟に
二の腕から先が、床にごろりと落ちて、ひくひくと僅かに蠢いている。
慌てて
「うおおおおおお!?」
右腕の消え去った肩口へと顔を向けた男は目を見開きながら狼狽えるように慟哭した。
叫び声が弾け出るとともに、男の肩口からは盛大に赤黒い血が噴き出していた。
からんっ――
と、金物の落ちる音がする。
男の手から
驚愕して落としたのだろう。
そして、
刹那、
天井へと向かって斬り上がっていた刀の切っ先は、疾く、反転し下方に向きを変えた。
すっと刀身が床に向かって滑る。
刀の柄へと右手を添えた
土塊に挟まった糸をすっと抜くかのように、するりと男の体の中を、刀の刃先が通り抜けていく。
「おうっ……。」
男から鈍く深い奇妙な音が鳴った。
それは男の喉から漏れたのか、裂けた腹から漏れ出たのか分からない、不気味な音であった。
男の首に細い裂け目があった。
裂け目は、首元から腹にかけて線を引き、一拍、息を飲んだかと思うと、男の体が斜めにずれた。
ずるりっと肉の擦れる音がして、上半身が床へと滑り落ちた。
ぐしゅっ――
と、肉の自重で潰れる音が、続いて、何か硬いものがへし折れる軽い音がした。
それが骨が床にぶつかって折れたのだと
肉が落ちた直後、奇妙な静けさが周囲に響いていた。
得体の知れない音が鳴り響き、宿の全員が思わず動きを止めたのかとも思えるほどだった。
僅かに間のあって、床に直立していた男の下半身がぐらりと揺らいだ。
倒れる、と思った時には、既に男の下半身は姿勢を崩し、後ろへと倒れ込んでいくところだった。
肉の塊が床へとぶつかり、
その光景を眺めていた
「やはり刃物と言うのならば、これぐらいは切れねばなりますまい。」
吐き捨てるように言いながら、
刃先についていた男の血と肉の破片が刀身を滑り、勢い良く飛び散って障子戸から床へとかけてぶつかった。
軽く肉の潰れて、
その顔から体にかけて、男から噴き出した血の幾分かか降りかかっており、長着には新たな赤黒い斑点が生まれていた。
更に顔の半分ほどに紅のように鮮やかな血がべっとりと濡れかかり、頬の一端から血を滴らせながら、
軽く目を細め、垂れていた眦が一層に緩まって、何とも
「ひあっ……あっ……あっ……。」
目の前で突然に巻き起こった惨状を傍らの布団の上で呆然と見上げていた
もう既に事は終わっているということを理解はしていても、視線を外すことが出来ずに瞬きすることも出来なかった。
かくかくと
気が付けば、
室内には水の勢いよく溢れる音が響き、薄汚れた布団の布地を濡らしながら黒い染みはどんどんと広がっていく。
「あれまあ。」
水音に気が付いた
「おやおや、漏らしてしまわれましたか。」
手に持っていた刀を
僅かに慄いて
股間から漏れる
指の先をぎゅっと布に押し当てる。
染み出た液体を指に絡めると、小さく
指先についた滴をちゅっと舐めとると、ほうっと僅かに喜色の含んだ声を上げ
「ふむ……。間違いなく、お小水でございますね。」
「あ……な、な、な、な、なにを……?」
五尺は越える大男を一息に斬り捨ててしまうような目の前の女性が恐ろしく、何かをするたびに打ち震えてしまい、すぐに喘ぎそうになる息を何とか押し殺しながら、
尋ねられて
それは本人にとってみれば笑んでいるつもりなのだろうが、向けられた
そんな
「いえ、ね。
酷く満足そうな笑みを浮かべ、
その言葉は耳を通って確かに頭の中へと入って来はしたのだが、言っていることの意味が一切理解できずに、
「えっと、はい?それは、どういう……。」
「分かりませんか?」
「いや、全然わかりませんよ。」
素直に
「そうですか……。」
どこか困ったような表情で眉尻を下げて
初めて彼女の人間らしい表情を見たような気がして、ほんの微かにだけ
一方で、
「なに。良いじゃありませんか。理由などどうだって良いことですよ。」
ぽんっと膝を叩くと
「なんにせよ、
「うあう……。それは……」
どこかおどけた調子で
その恥じらい方に
「まあ、どちらにしろ部屋自体が駄目にはなっておりますが……。」
前髪に隠れた額のあたりを親指で軽く擦りながら
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