6.問い三 - 謎の男一
「いえ、そう緊張なさらずに。聞きたいのは単純に
そう言う
「えっとっ……それは……。」
しどろもどろに表情を狼狽えさせ、僅かに
無論、木から落ちるまでは憶えていて、それがどういう
理解はしていたが、それを口にするのは
それは生半に他人には言えぬ、
目の前の女性は命の恩人かもしれないが、今しがた会ったばかりであり、話して良い相手かどうか判断がつかなかった。
そこまで思考を巡らせたところで、
「あっ……そう言えばっ……。」
着ている服の胸元の重ねに手を突っ込んで探り入れる。
指先にかさりと紙の擦れる感触がして、慌てて
一枚の封筒だった。
封筒の口はきちりと糊付けされ、四角張った印が紙の重ねに
じっくりと紙の重なりを眺め、その印の字が一片のずれもないことを確認し、
「
杯を呷りながら、
封筒を眺めながら、
「あの、そのぉ……そちらの問いに答える前に。むしろ何故私を助けてくれたのか、尋ねても良いですか?」
「ほう。どうして……?」
問われて、
「どうしてかと問われてしまいますと、それは存外に返答に困る質問でございますね。いやはや、理由ですか。理由ね……。実のところ、
立て板に流れる水かのようにつらつらと言葉を並べ立てた
ただ、最後に言われた「面白そう」と言う言葉に、そんな馬鹿な、と言う気持ちになってしまっていた。
どこの
面白そうだから助けた等と言われれば、
「あの……いくらなんでも面白いからなんて、そんな理由は信じがたいのですが。」
相手の言葉を否定することに多少の遠慮と言うものを感じているのか、
「それは、信じようと信じまいと、
実際、
面白いという言葉に色々な含みはあれども、極端に一つの言葉にしてしまうなら、面白いからと言う他はなかった。
ただ、それが相手にとってどう感じられるかも、信じてもらえるのかも、
僅かばかり、愉快なことが起こる予感がした。
「私がどういう理由で助けたかは、そんなところなのです。問題は私のことよりも
再び問われて、
「……言えない、と言ったらどうするつもりですか?私も斬られますか?」
微かに痛む腹の傷を抑えながら、
軽く
「まあ、喋らぬのも良いでしょう。どうせ結局は面白いことになりましょうから。」
窓の外へと眺めていた顔を突き出して、外の香りをかぐようにくんっと
その鼻孔にまとわりつく、一つの匂いを感じて、
思わず
* * *
四
薄汚れた宿の入口へと足を踏み入れんとしていたその者は、身の丈で五尺の五寸はありそうな大男で、街道からその男を眺めた一人はどこか訝しんだ表情を見せる。男がどうと言う事ではなかった、着ている物は上下に灰色がかった無地の着物で、いたって普通の身なりをしていた。
ただ、その顔が異質であった。
男の顔は顎から頭の
僅かに目元だけは開かれていて、そこから白い眼玉が覗いたが、ぎらぎらとしたその目は妙に血走っていて、むしろ異常さを余計に引き立たせていた。
宿の中へと男が入ってみると、どこか慌ただしくそこかしこからひっきりなしに人の声が響いていた。それは安宿ゆえに宿泊者が多く話し声が響いていたのもあり、また客が多いことから宿の働き手達も慌ただしく働き、騒々しかったせいもあった。
周囲を見渡して男は宿の構造を把握していく。
まずもって宿の入口からは土間が続き、そこから少し進んだところから板が張られ僅かに高くなっている。
一階は板張りの所から左に向かって宿の人間達が待機するような広間になっていて、更にその奥から客室へと続く廊下が伸びていた。土間近くの右手側には階段があり、そこから二階へと昇れるようになっているようだった。
男がさらに一歩宿の中へと足を入れると、丁度、宿の女性が通りかかり、おやと明るい声を挙げる。
「いらっしゃい。御用ですか?」
宿の女性は土間の一番近くまで歩み寄り、男の方へと声を掛ける。
覆面をして目を血走らさせている男の形相は、一言に異様であり、宿の女性も
そのような風体の人間など、ここぐらいの安宿ともなれば毎日とは言わずとも慣れる程度には見かけるものであり、最悪金さえ出してくれるならば、どんな風体であろうが、どんな訳ありだろうが、拒まずに受け入れる用意があった。
男は土間を歩き女の近くへと寄っていく。
その態度に客であろうと理解した女は努めて顔を明るくさせる。
「お泊りですか?」
尋ねると、男は視線をじろりと宿の娘へと向けた。
僅かに一瞥して男は裾へと手を入れると、その中からすっと一本の白木を取り出した。
それは腕よりは少し細いくらいの棒で、中心の所から少しばかり男の握った部分へと寄ったところに一本の切れ目があった。
男は棒のもう一方の端を掴むと、手を上下に開く。
棒が二つに割れて、その間から鈍い光を放つ刃先が現れる。
それは
「あれ。」
宿の女は慄くとともに、
それを男の手がむんずと襟をつかみ捕まえた。
女の首筋へと
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