5.問い二
見覚えのない人間が近くにいることに多少の恐怖を感じながら、
その表情に敵意はないながらも、鋭く険しいものになっていく。
警戒心を丸出しにした僅かに棘の籠った声に、半裸の女性はむしろ呆れたようにため息をつきながら肩を竦める。
「おや、まあ。倒れている所を助けた人間に向かって、何て顔をなさるものでしょうかねえ。」
ふわりと漂うように唇から漏れた彼女の言葉は、どこか艶やかで緩く悠長な声であった。
その特徴的な声に、やはりどこかで聞いたことがあるような気がしつつも、思い出せないまま
「あの……
「介抱したと言えば、介抱はしましたかねえ。倒れていた女性を無理やり宿へと連れ込んだともいえますけれど。」
何が可笑しいのか、くすくすと半裸の女性は笑うと、持っていた杯を唇へと添えてくっと呷る。
澄んだ液体がするりと唇の狭間を通って、口内へと注ぎ込まれていった。
軽く上げた顎から、するりと細やかに伸びる喉が波を打ってこくりと小気味の良い音が鳴る。
半裸の女性は僅かに目を細めると、ふわっと唇の狭間から湯気が立ち上るかと思うほどの熱そうな吐息を漏らしていた。
「さて、先ほど私が誰かと、問うておりましたね。教えてあげても良いですよ。私の名は
そこには無造作に床へと置かれた刀があって、腰へと結びつける紐の先を
すらりと長く伸びた、毛も生えていない裸の足先をぷらぷらと動かして、何度か刀を鳴らしたかと思うと、
ガチャリ――
と床に刀の落ちる音がする。
不意に鳴り響いた音に、思わず
それは
「姓は……。」
言いかけて
姓のあるのは貴族や武士、官職を貰うような人間たちだけだ。
ましてや女で姓を持つ者は、ほぼ居ないと言って良い。
そして仮に姓などがあるような人間であったならば、間違いなく今二人が居るような安普請の部屋などにいるはずもなかった。
ただ、
腕試しと彼女は確かにそう言った。
そして細身ながらに刀を扱うこと、特徴的な服の文様に、ふっと
「もしかして、河原で少しお話しした、あの笠を被っていたお方ですか?」
「
「それはまあ、一応。群衆の外で遠目にだけですが。凄かったですよ、一刀に斬ってしまわれて。」
どこか熱の籠った様子でぐっと手を握りしめながら
先だって会話したという事実が
「そうでございますか。それは
口元を緩めると、はだけた胸元の肌を指先で一つ二つぽりぽりと掻きながら、
窓の外から風がそよそよと流れ込んで、
部屋の中に、僅かばかり青臭い葉の香りが流れ込んでくる。
その匂いから顔をそらすかの様にして、
その笑みが、妙に
そんなことも気にもせず、
「それで
「え?ええ。私の名は
「
事もなげに
「な、何を変な事を仰るんですか。綺麗などと……。」
余りにもあからさま世事と感じてしまい、恥ずかしくなった
思いもよらぬ言葉に慌てたのか、その頬は一気に朱に染まっていた。
しかし、そうして違う方向へと視線を向けたことで、改めて部屋の様子が
部屋の中には今
その障子戸も紙は破れ破れにつけられていて、廊下の様子が部屋の中にいる
やはりと言うか、全く見覚えのない部屋であり、そんなところに無防備に連れ込まれていると言う事実に、何とはなしに
「ここは……一体、どういう場所なのでしょうか。」
再び
「何って、ここはただの宿でございますよ。安宿と言えば良いでしょうか。
軽く曲げた指の背で、こんこんっと窓の近く壁を叩いて、
その行為は、宿の粗末さをわざわざ示して見せているようだった。
この時代には、食事に使う薪の代金だけを払い、大部屋に雑魚寝できるだけの
|薪《まき》の代金だけで泊まれることから、木代の宿と言うことで
その
どこかの屋敷に連れ込まれたのではなく、宿と言われたことで
「ところで、私も聞きたいことがあるのですがね。」
そんな
「あ、えっと、な、なんでしょうか。」
不意に向けられた
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