4.交差二 - 問い一
見ている間に、その滲みはどんどんと広がっていき、服の布地を赤く染めていく。
裂かれた部分へと、指先を突っ込んで布地を捲ってみると、こぷりと血が溢れてきて、そこの肌に、小指程の長さの切り傷が刻まれているのが見えた。
それはあからさまに刃物で切り裂かれた傷であった。深くは無かったが、とぷとぷと絶えず血が溢れてくる。
「何ともまあ……。可愛らしいお方に無残なことをする人が居るもので……。」
胸元から一枚の
少女の着ている服の帯を解くと、前重ねをはだけさせる。
ぴたりと肌に張り付いた肌着に、覆われていた胸元が、ぽろりと露わになった。
仰向けに倒れているにも拘らず、その曲線が分かるほどに少女の胸は豊かな膨らみを湛えていた。
膨らみの曲線を眺めて、思わずも
「随分なものをお持ちでいらっしゃる。」
ため息交じりに言いながら、少女の腕をとって体を引き起こさせると、その血の
一周、二周と
巻き付いた
代わりに一瞬だけ血が強く滲みだして、服の布から地面へとぽたりと雫の一つが落ちた。
「あうっ……。」
意識がないながらに、腹を締め付けられた痛みを感じたのか、目を閉じたまま
ただそれも、すぐに途切れて吐息は緩くなっていく。
服を着せ直し、差し当たっての手当てを終えて
すんっと
一瞬、何かに気が付いたように顔を上げて空を眺めた後、首を回して周囲へと視線を巡らせた。
かさり、と、どこかで葉の擦れるような音がする。
「如何しましょうかね……。」
にっと緩く口角を上げながらも、
晒しを巻いた腹部の血の
一先ずはこの少女を助けてしまおうと、一つ息を吐くと、その胸元へと肩を押し当て、くっと体を抱え上げた。
かさかさと、どこか遠くで葉擦れのする音が響いてくる。
遠く松の幹の間に見える
* * *
三
どこか遠くで、
甲高く短い
一瞬、風の強く吹き渡る音が轟いたかと思うと、木の葉の大きく擦れる音がして、四十雀の鳴き声が止まった。
しかし、数分もしないうちに、高く澄んだ
深く暗い意識の闇の中で、
それは午睡の
そうして
ただ
「はっ……!?」
はた、と次の瞬間、
目が開き景色が視界の中へと広がっていくうち、
直ぐに視界の中へと入ってきたのは、板張りの天井であった。
いや、それが本当に天井であったと理解したのは、
ただ、半ば呆けた意識の中で恐らくは天井であろうと理解はしていたた。
理解して、その天井が全く見知らぬものであったがために、
「ここは一体……?」
天井は酷く安普請の作りで、
寝ている床さえも同じようなものなのか、僅かに
小さく顔を動かして、視線を巡らせると、
布団の端を手に取るとそれを
「っ!」
途端に腹部へ痛みを感じて
いつの間にか腹には白い布が巻かれていて、そこに赤い色の染みがじゅっと
この布もそうだが、こんな見たことのない部屋に誰が連れてきたのか、不審がりながら
「おや、起きられましたか。良うございました。」
不意に
緩く甘やかな響きに何故だか聞き覚えのある気がしながら、
その声がしたのは、
「誰ですか?」
視線を向けてみると、大きく開かれた窓からは昼の日差しが強く差し込んできていて、先ほどまで目を瞑っていた
右手を目の前へと
目を慣らしていくと、床から二尺ほど高い窓の桟に、一つの人影が腰を掛けているのが見えた。
「わっ!?」
思わず驚いてしまったのは、その人物が、長着姿で袴も履いていないにも関わらず大仰に足を開けひろげているからだった。
股間を丸出しにさせながら、桟に腰かけたその人物は、窓の枠に背を持たれ掛けさせて、随分ゆるりとした姿勢で外を眺めているようだった。
その右手には
一瞬、股間を大きく開いたあまりにも大っぴらな姿勢に、
ただ、次第と慣れてくる視界の中で、裾の間をいけないと思いながらも覗いてしまうと、相手の股間がのっぺりとしていて「一物」がないことに気が付き、すぐに窓に座っているのが女性なのだと気が付いた。
そう理解してから顔へと視線を向けてみると、
目じりは僅かに垂れていて、左目の端に二つの泣き黒子が連なっているその顔は、どことなく妖艶にすらも見える。
女の髪は結いあげられ、長く垂れた前髪以外は後頭部に円を描いてまとめられていた。
それ以外で特徴的だったのは、彼女の来ている長着で右の袖から、黒い斑点のような柄がびっしりと広がっていて、腰まで連なったそれは、帯をつけていただろう部分から急に途切れていた。
明らかに妙なその柄に、どこか見覚えがあるような気がしながらも、思い出せずに
「
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