第37話 動く

 ……4月11日、月光の間……



「ぐっ……。」

「目が覚めたか。」


 夏雅璃弥はゆっくりと起き上がる。


「真梛羅は……?」

「そこだ。」


 真梛羅は人姿で廊下に座り、外の桜を見ていた。


「真梛羅。」

「夏雅璃弥!」


 真梛羅は夏雅璃弥に飛び付く。


「ぐっ、おお……💦」

「さて、と。さっきの話の続きと行こうか。」

「話……?」

「決着、着けに行く。今日の夜、出発ね。」

「これ以上皆を傷付けたくない。」

「……分かった。」



 ……真夜中、屋敷のある山の2合目広場……



 そこには黒く大きい装甲車が3台と百鬼達が居た。


「あいつ等、本当に来るのか?」

「罠だったりして?」

「いや、来る。前回の襲撃で仲間を失う恐怖をしたはず。それに真梛羅が直々に電話して来た。間違いないだろう。」

「それにしても―――」


 晴螺は空の満月を見上げる。


「美しいですわね、今日を選んだのはこれもかしら?」

「もう1つある。」


 桜の花弁が夜風に吹かれて月の明かりの元で華麗に舞う。


「醒城家は月と桜に縁が深い。本能的に選んだんだろう。」

「……百鬼。」

「よお、真梛羅。鬼ごっこは終わりか?」

「もう疲れたよ。それに本当は私達3人全員が欲しいんでしょ。」

「当然。」

「1つ、最後に約束してほしい事がある。どうせもうここに戻る事も、皆に会う事も、話す事もないんだろう?」

「良いだろう。」

「“皆には手を出さない”。そう約束してほしい。」

「それが叶うなら俺達をどうとでもすれば良い。殺すのも、操るのも、な。」

「ああ、最初からそのつもりだ。お前等3人が手に入ればここに用はない。国に帰らせてもらうさ。」


 百鬼は車に乗り込み、手招きする。

 3人は車の方へ歩く。


「せめて3人一緒にしてやるよ。ありがたく思え。」


 夏雅璃弥、真梛羅、孔醒の順で乗り込み、座席に座る。

 百鬼が扉を閉める。


「おい、出せ。」


 運転席に座っている人物が車を動かす。

 百鬼は真梛羅達の向かい側の座席に座る。


「港へ向かえ。この国とおさらばだ。」

「了解しました。」

「ああ、そうだ。3人共、携帯を出せ。それが終われば寝ても良い。」


 3人は大人しく携帯を百鬼に渡す。

 百鬼は3人の携帯を1台ずつ弄り始める。


「あいつ等に言い残す言葉は?」

「……さよなら、どうかいつまでもお元気で。」

「他の2人は?」

「……今まで世話になった。」

「……体、壊すなよ。」

「了解、全員に一斉メールしといてやる。」


 真梛羅は涙を流しながら夏雅璃弥にもたれて眠った。

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