第31話 この世には居ない者

 ……1時間後、月光の間……



「くっ……。」

「起きたか?」

「結局その話し方にしたんだな……。」

「嘘、吐きたくないからな。」

「そうか……?」


 夏雅璃弥は起き上がろうとした左脇腹に違和感を感じ、見てみると真梛羅が猫又姿で眠っていた。


「真梛羅?」

「寝かしといてやってくれ、真梛羅も怪我してるんだ。」

「えっ……?」

「脊髄と肋骨損傷。左足にヒビが入ってる。それとお前がその傷の所為で体温が低いから温める目的でくっ付いて寝てる。」


 孔醒は夏雅璃弥の右脇腹を指差しながら言う。

 夏雅璃弥は真梛羅にもう1枚毛布を掛けて寝転がり、頭の後ろで手を組む。


「本当に真梛羅には優しいよな。」

「……似てる。」

「お前にか?」

「“妹”に。生き別れた妹に。両親が殺される直前に。容姿は分からないが、性格や仕草が似てる。だから落ち着く、安心する。迷惑だろうな……。勝手に妹と重ねて、兄貴ぶってさ。」

「意外と同じ気持ちだったりして。」

「はぁ……?」

「真梛羅は“兄”を失った。だから懐かしいのかも知れないぞ?」

「なら良いな……。そうだったら俺も気持ちが軽くなる。」

「百鬼……。」

「「!」」

「……ほらな?」

「……ああ。」


 夏雅璃弥は真梛羅の頭を優しく撫でる。


「……なぁ、その妹の名前って何だ?」

「真梛羅の旧名と一字一句同じだ。」

「えっ……?」

「妹の名は望美。醒城せいじょう 望美。」

「醒城……。醒城は本家の名だ。」

「本家……?ま、まさか、白泳の!?」

「……ああ。」


 何だ……?俺達の記憶に穴がある……?

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