第3話「カラオケにて」
色々あって梓とカラオケに来てしまったけど、さて何を歌ったらいいものか。
カラオケ自体は嫌いじゃないけれど、人と来ると何かと気を遣う。相手の知ってる曲だろうかとか、上手く歌える曲だろうかとか、あらゆることを気にしまって、選曲に時間がかかる。
「梓、先に歌っていいわよ」
「えっ!? 私からですか!?」
「ちょっと選ぶのにかかりそうだからさ。テキトーに歌ってて」
「わ、分かりました。じゃあ……」
梓は今流行りの女性アイドルの曲を入れた。梓のトーンによく合うバリバリのラブソングだ。
もし歌詞に色があるとすれば、ピンクや水色のパステルカラーだろうというような、それはもう聴いているこっちがこそばゆくなるほどの恋心を歌う。
いたたまれなくなって顔を上げると、梓と目が合う。ご丁寧にウィンクまで寄越す。
なるほど。あたしに向けて歌っているつもりなのだろう。
でも残念なことに、あたしはアンタの可愛いぶりっ子声に簡単に落ちる馬鹿な男共とは違う。
曲が終わると、梓は静かにマイクを置いた。
「ふー……緊張しちゃいました。どうでしたか?」
「あざとすぎ」
「私の十八番なんですよ~?」
「そんなの知らないわよ。マイクちょうだい」
「はい。どうぞ」
梓の歌を聴いていたら、気を遣うのも馬鹿バカしくなって、適当に昔見た映画の曲を入れた。英語だけど、まあ歌えるだろう。
歌っている間、梓がキラキラした目であたしを見る。そんな目で見られても困る。
歌い終わると、梓は大スターのステージでも見たのかという勢いで、拍手をした。
「すごいです! 珠子さんの声、とっても綺麗でした! 英語もお上手で、もう惚れ惚れきゅーんって感じです!」
「大袈裟よ……」
「いえいえ! さあどんどん歌ってください! ここは珠先輩の単独コンサートです!」
「は、恥ずかしいからやめなさいよ!」
こんな感じで、何を歌っても大絶賛されるのであった。
当て馬女と百合の花 番外編 御園詩歌 @mymr0701
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