第3話

 やがて夜になって、ぼくたちは、ここで今日は眠ろうという場所で腰をおろした。

 ラクダは、自分のこぶの両脇から下がっているそれぞれの麻袋を指すと、そこに食べ物と水があるからと言った。それはラクダの前の主がそのまま置いていってくれたものだった。その人はラクダに、もし砂漠で迷って困っている人がいたら役立ててほしいと言ったという。

 ぼくはその袋の中から必要な分をもらった。でもこの中にはラクダが食べられるものはなかった。ぼくがラクダに訊くとラクダは、自分はしばらく食べなくても大丈夫だからと言った。ほら、このこぶがその役割りをしてくれているから。ここには当分の間の必要なものが、つまり、栄養になるものが入っているの。だから心配しないでと長い睫でウィンクをした。

 ぼくは、自分が何も知らなかったことを知った。ミーファと旅をしていた時は渡り鳥がそれをくれたし、きりんとの旅では頻繁にではなかったけれど木の実や自生している西瓜のようなものをとることもできたから食料の心配をしないまま来てしまった。今になって思うとこの不毛の地ともいえる砂漠で、もしあのままラクダに逢わないで一人で来ていたとしたら今頃ぼくはのたれ死にをしていたかも知れなかった。ぼくはラクダと、その前の主に感謝した。本当に彼らの気持ちがありがたかった。

 食事が終わると、ラクダは星空を見上げ、見てごらんとぼくに言った。ぼくはそこにある無数の星々の様に息を飲んだ。ぼくはラクダに、これがもう一つの宝物なんだねと訊いた。

 ラクダは、これも、と言ったほうがいいかしらねと笑った。ぼくはまたしてもラクダの言ったことの意味が解らず、じゃあ、他にもあるの? と訊いた。ラクダは微笑み、夜空の星を指し示すとぼくの知らなかった星座や星の名前を教えてくれた。星の輝きをじっと見つめていると、それは光の鎖になってぼくたちの手元まで届いてくるような気がした。ぼくはその光に向けて手をさし伸ばした。光は形のある鎖としてではなかったけれど、たしかにぼくの手に届いた。その瞬間、ぼくたちは宇宙にいると思った。その場所のことを宇宙と呼んでいいかは判らなかったけれど、上も下もなく、果ても始まりもない、ただその空間にぼくたちが在る。そして無数の星の中にぼくたちもその一つとなって存在している。その感覚を、ぼくはこの時、言葉ではなく文字通り感覚としてとらえていた。

 そのことを、ぼくはラクダに伝えた。するとラクダは、私たちも宝物の仲間入りをしたのかしらと言った。その言葉でぼくはラクダの言っていたもう一つの宝物を見つけることができた。けれどそれはぼくたちだけに限ったことではなく、そう、例えば・・・・。そう、おじいちゃん! ぼくは一人でぼくの帰りを待っているだろうおじいちゃんのことが自然と思い浮かんだ。おじいちゃんが、無数の星の中でぼくを待っていてくれる。そんな姿が宇宙の彼方に見えた。

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