第3話 眼福極まりない美少女ゲーの世界
お薬、飲まなきゃダメかなぁ……。
病院帰り、僕は駅前のベンチに座りビニール袋の中のお薬を覗き込んで、今日何度目かのため息を漏らす。
それから休むことなく人を吸ったり吐いたりする駅の改札口に目を向けた。
そこには彩り豊かな世界が広がっていた。
「ハァハァ……ハァハァ……」
改札から出てくる人、その全てが美少女。
さながらその改札の内側は美少女製造機か何かじゃないかと思ってしまうほどに、息つく暇もなく美少女が改札から出てくるのだ。
「が、眼福過ぎる……ハァハァ……」
美少女たちが闊歩する駅前は、たとえ空き缶やタバコの吸い殻がそこらに散らかっていようとも、以前とは異なる赴きがあるようだった。
「しかし、それにしてもだ……」
僕はそんな美しい世界から手元のビニール袋に再び目を落とした。
最初の問いに立ち返ろう。
この処方されたお薬、飲まなきゃダメかなぁ……?
だってこれ、今のこの『見る人全てを美少女として認識してしまう病』
を治すためのお薬でしょう?
「僕、このままでも結構幸せなんだけどなぁ……」
こんな世界、この病気に罹った人間の視界を除いては美少女ゲームの中にしか広がってないんだぜ?
正直なところ、僕は今、幸せでいっぱいです!
しかし、そう思う反面で、
「でも、これって病気なんだよね……」
これが末期症状の精神病だという事実が心に暗雲をもたらしている。
病気、病気なのだ。
病気は治さなくてはならないから病院があり、普通ではないから家で安静にしていろと言われてしまう。
こういった病を抱えてしまっていては、この先多くの人に色眼鏡をかけて見られてしまうであろう。
打ち明けなくとも、病を周囲に隠して生活しているというストレスが心に巣食ってしまうのではないだろうか。
この病が続く限り、少なくとも様々な不安が僕を襲うのは間違いなかった。
「それに、ロリ先生に朝昼晩欠かさずに飲めって言われちゃったしなぁ……」
もしも病状の経過を診るはずの1週間後の診察に、手つかずの錠剤と共に行ったとしたらロリ先生は悲しむだろうか、泣いちゃうだろうか。
「ロリっ娘の悲しむ顔は見たくないしなぁ……」
困ったものだと、とりあえずビニール袋は脇へと置いた。
「深く考えるのは後にして、今はこの幸せを甘受しようじゃないか……」
そうしてハァハァと駅前をの人々の観察を再開していた時だった。
「――あの、すみません。ちょっとよろしいですか?」
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