三界の外は火宅ならずか

「あの話の最後の通り、彼女は猫ですよね。

 今の先生の話から考えるに、和服の男性は狐でしょうか。

 そうでなくても蛇とか、山側の存在でしょう。

 生花をかんざしに用いること自体、本来は植物の生気にあやかる意味や神事で行われる特別な行為、花挿かざしであって、尋常ならざるもの、晴れであり、異界的なものです。

 同じように彼岸花を挿している子供たちはその眷属けんぞく……なんですかね」

「そう、そこでまた別の名前や俗信を気に掛ける必要が出て来る。

 つまりは今、君に僕が提示した情報はたぶん足りない」


後出しで情報が足りないのは致命的な問題でしょう。

思わず目の辺りに力がこもります。


「まあまあ、一応、ここまでで、で確認したかったんだって。

 追加の情報として、二つ。

 まず、彼岸花の別名には水子みずこしゅうの花と書いて水子衆花みずくしのはな、またそのままの水子みずこというものがある」


水子みずこ

一般的には残念ながら、何らかの理由で、自然、あるいは人為的に流産となってしまった胎児を指す言葉です。

そうした胎児の霊を特別に水子霊と呼んで、特に水子供養みずこくようとして特別に供養することもあります。

時々、墓場に、一般的には大きなお地蔵様の姿の水子供養塔みずこくようとうが立っています。


「二つ目。俗信の中に彼岸花を手にすると、家を忘れるという話があるんだ。

 そして、そこに由来すると思われる道逸みちはぐぐさ道迷みちまよぐさ道忘みちわすぐさわすばなわすぐさというバリエーションに富む別名がある」


ここまでくれば、あの子供たちがどちらなのか、というのは些細ささいな問題です。

意外と、混ざっているのかもしれません。

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