窓辺で
* * * * *
かちん、と私は今時珍しいラジカセの停止ボタンを押し込みました。
先生が昔にインタビューした時の資料の、文字起こし。
その最終段階の確認をしていたのです。
なーご、と後ろの開け放した窓から、猫の鳴き声がしました。
振り返ると、窓の側の塀に乗った一匹の黒猫が、緑がかった黄色の目で私を見ています。
通りすがりさんのようです。
うーん、今回はさしずめ、怪談の中の黒猫、でしょうか。
「どこから来たんですかねえ。首輪がないから迷い猫ではないようですけど」
そーっと手を伸ばすと、ぺしんと猫パンチではたき落とされました。
ああ、哀しい。
そりゃ野良ちゃんならノミの心配も勿論ありますが、それでももふもふの魅力というのは、実に多くの人心を惑わせます。
「ダメですか……見ることしか叶いませんか……」
なーご、と肯定のように黒猫が鳴きます。
手厳しい。
悲哀を味わっていると、がちゃりと部屋のドアが開く音がして、次いで能天気な響きのあるやや高めの声がしました。
「ただいまー」
先生が帰ってきたのです。
そして、猫ちゃんは音に驚いたのか、するりと塀の向こう側に降りていってしまいました。
「おかえりなさい、せんせ、い?」
振り向けば、本日二度目の、
細い
正に今さっき私が最終確認を終えたお話の、そのキーの一つである彼岸花が、先生の手にはありました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます