録音 4
私には
彼女は、私に差し出されていた彼岸花を乱暴に奪いました。
りん、と彼女から鈴の音が聞こえたように思います。
それから、彼女は私に笑いかけて言いました。
――さあ、お嬢さん、おかえんなさい。
なーご。
そう、耳元で聞こえて、目が覚めました。
身を起こすと、その鳴き声の主の黒猫、当時の隣家が飼っていたクマという猫は、するりとすぐに何処かへ行ってしまいました。
元いた空き地の地面に、私は寝ていました。
空はもう夕焼けでした。
どこからが夢で、どこからが現実なのかもよくわかりません。
ただ、少なくとも私が地面で寝ていた時間は、そう長くはないはずなのです。
いくら田舎といえど、その空き地は決して人が全く通りかからない場所ではありませんでしたから、すぐに気が付かれたと思います。
狐に抓まれた心地で、その日は帰りました。
それから数日して、隣家の戸口の壁に何か書きつけた紙が逆さに貼られていて、その下に、いつも猫のクマが使っていた茶碗が伏せられていました。
どうしたのか尋ねると、数日前からクマが帰って来ないとのことでした。
私が、狐に抓まれたその日から、クマが帰って来ないと。
だから、私は、もしかすると、あの時の彼女は、クマだったのではないかと思うのです。
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