録音 3

――お嬢さんは、受け取っちゃなりませんよ。


そう言ったのは、さっきまでいなかったはずの、黒服の女性でした。

さっきまでなかったはず、いなかったはずが目の前に出てくる事が三度にも重なったからでしょうか。

不思議と、さほど驚きはしなかったのです。

あの子達は、彼女を睨みつけるように見ていましたが、彼女はそれを気にしていないようでした。

それよりは、私の背後、一面の彼岸花を指した彼の方を気にしていました。


――困るなあ。


そう、彼が言いました。


――もう少しだってのに、ねえさん、意地が悪くないかい?

――ねえさんだって、同じだろうに。


困っているというよりは、状況を楽しんでいるような声音でした。

彼女はそれを、ふん、と鼻で笑いました。


――同じ? どの口が言うんだい。山住みが。


そこから先は、私には、口を挟むことが許されない会話でした。


――残念ながら、すでに道は敷けたんだよ、ねえさん。


――敷けた? その花でどんな道が敷けるというのさ。ろくでもない。

――だがまあ、そういう事なら、その花はアタシが頂こう。里住みならば問題あるまい。


――おや、いいのかい、ねえさん。確かに里住みのねえさんなら、条件を満たすがね。


――ふん、アタシにとっちゃ、どんな家も通り道みたいなもんさ。

――忘れたところで、拠点を変えるだけさね。


そういうやり取りでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る