録音 2

――もう帰るのかい。


突然、男性の声がしたんです。

気がつくと、その子達の後ろに、和服の男性が立っていました。

糸のように細い目で、優しそうなのですが、どこか影というか、何か胡散臭いような、不思議な雰囲気の、ひょろりとした人でした。

彼は、その子達と違って、両の耳に挟むようにして彼岸花をさしていました。


――帰るのならお土産をあげよう。


そう言われて、彼は組んでいた右腕をつい、と伸ばして、私の後ろを指さしたのです。

私が振り向くと、そこには真っ赤な彼岸花が沢山、沢山並んでいました。

目を刺すように鮮やかで、どこか不気味な景色でした。


――一本、摘んで行くといい。


突然の一面の赤にひるんだ私に、彼はそう言いました。

手を伸ばすことはできませんでした。

だって、今までその場で遊んでいたのに、あの一面の燃えるような赤を見落とすはずはありません。

彼が、私の後ろを指したと同時に、一瞬にして広がったとしか思えないのです。

それこそ、紙の端から端へ、貪欲にすばやく燃え広がる炎のように。

手を伸ばさない私を見かねたのか、あの子達は平然と私の脇を通って、ひょろりと伸びた彼岸花を、あれでもないこれでもないと品定めして、そして、ぽきりと一本手折ってから、私のところまで駆け戻って来ました。

そして、はい、と私にその手折った彼岸花を差し出したのです。

差し出していたのは、私を連れて来た最年長の子でした。

ひるんだままの私に、遊んでいた時と同じような笑顔を浮かべて、じっと私が受け取るのを待っていました。

受け取らなければ帰れそうにないと、そう思ったので、私は胸元に縮込めていた手を伸ばそうとしました。


その私の手を、掴んだ手がありました。

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