迷子のひがん

板久咲絢芽

録音 1

その日、私はひとりでした。


ひとりで、遊んでいたのです。

今ほどそういった事にうるさい時勢でもありませんでしたから、ひとりで遊んでいたのです。

いえ、別段今で言ういじめとかではないのです。


逆です。

私の家は、地主で、それなりの家でしたので。

ええ、そこにあったのは忌避ではなく、畏怖でした。

そんなですから、慣れてはいたのです。


枝を拾って、地面にがりりと突き立てて、絵を描いていたのです。

突然、影が差して、驚いて顔を上げると、見慣れない子が立っていました。

私と同じくらいのその子は、にこっと笑って、遊ぼうと言ってきました。

同じくらいの子ですから、見慣れないのは余所から来ただけなのだろうと、深く考えもせずに、誘われるまま、その子達と遊んでいたのです。

ええ、その子に連れられていくと、ええと、確か四、五人ほど他にも子どもたちがいたんです。

年格好はばらばらで、私を連れて来た子が最年長でした。


あまり、顔立ちとかは覚えていないのですが、兄弟ではなさそうな印象を受けた記憶があります。

あと、そう。こう、耳に鉛筆やペンを挟むのと同じ要領で、花を、そう、彼岸花を片耳にお揃いでさしていました。

ええ、真っ赤で目立ったので、とても印象に残っています。


一緒に、鬼ごっことか、ままごとで遊んだような気がします。

すみません、少し記憶が曖昧なのです。


ふと、もうそろそろ家に帰る時間だと、気が付いたのです。

ただ、あまり夕焼けを見たような記憶はありません。

何分、幼い頃の話なので、時計を持っていたわけでもありません。

どうしてか、もう帰らなきゃと思ったのです。

だから、帰らなきゃ、と。

そう言ったのです。

そしたら、その子達の顔から、ふっと表情が消えたのです。

何か変なことを言ったのかしらと、思いました。

けれど、それも一瞬だけでした。

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