第16話 弟子に成りました
僕は悩んだ。
仙人に会いに行くべきかどうかだ。
(弟子に成るかどうかは別として、行ってみようか)
弟子になったら、しばらく帰れないかも知れない。
母さんにそう伝えると、得意のクッキーを持たせてくれた。
仙人に貰った転移札を使った。
転移先は、ローガ山脈のかなり高い場所のようだ。
目の前には、洞窟がらしきものがあった。
らしきというのは、入口が板で塞がれていて向こうが見えないからだ。
扉もあるし、洞窟なのだろう。
空間探知を使って、洞窟であることを確かめた。
中に人間を探知できなかったので留守かと思った。
が、一応声を掛けてみる。
「こんにちは」
返事がない。
「やい仙人。俺様だぞ~」
返事がない。
「じじい。帰るぞ~」
突然、後ろから殴られた。
僕の魔力感知にかからないとは、なかなかやる。
「こりゃ坊主、師匠にその言葉使いは何じゃ」
「まだ、弟子じゃないし、名前知らないし」
「名前か...。名前じゃな。...ふむ、忘れた」
「...忘れたの?...じゃあ、お爺さんでいいね」
「まあ、いいじゃろう」
「ところで弟子になったら、何を教えてくれるの?」
「仙術と気功術じゃな」
知らないスキルだ!
ということで弟子に成ることにした。
「師匠、お願いします」
その後師匠は、仙人に成ったいきさつを話してくれた。
この国オルトガルム王国ができて、間もない頃。
長城もまだ建設されていなかった頃の話だ。
うんと南の方に住んでいた師匠は、建設中の町ガルカロスを目指した。
今のガルカロス城塞都市である。
しかし、方向音痴であった師匠は、モルボスの樹海へ迷い込んでしまった。
(なんか、言い伝えと違うぞ)
そこで、強そうなモンスターに見つかり、必死に逃げた。
そして、たどり着いたのがローガ山脈の麓だった。
(言い伝えでは、魔物を倒しながら、向かったはずなんだけど)
ローガ山脈を少し登ったところで、力尽きて座り込んでしまった。
なぜか、魔物は、追いかけてこない。
そのまま、眠ってしまった。
どれぐらい経ったか分からないほど眠った後。
目が覚めると、側に見たこともない老人が立っていた。
金色に輝く髪と長い髭、金色のローブを纏っている。
そして、目の色までも金色に輝いていた。
その老人が口を開く。
「儂は、この山に住む始祖龍だ。人は、金竜ゴルガノンと呼んでいるようだな」
師匠は、震える声で言った。
「あなた様の聖地に入ったことをお許しください」
「そんなことは、どうでもいい。だが、ここで人は生きられぬぞ」
「...」
「ここに食い物はない。人は食べねば死ぬのだろう」
「はい、死にます」
「森に帰っても、魔物に殺されそうだな」
「...」
「生きたいか?」
「はい」
「儂は、大気中の魔力を食らい、生きておる」
「...」
「ぬしがその方法を得るには、死ねぬ体に成るしかなさそうじゃ。それでもよいか?」
「はい」
師匠が頷くと、老人は、自分の左腕に右手の爪で傷をつける。
金色の血らしきものを1滴、どこからか取り出した金の盃に垂らす。
すると、たった1滴だったはずのそれが、なぜか盃を満たしていた。
それを師匠に渡して、飲み干すように促す。
飲み干したとたん、師匠の体は、焼けるように熱くなった。
その熱ささはすぐに全身に回り、凄まじい痛みへと変わった。
しばらくのたうち回った後、気絶してしまった。
目が覚めた時、あの熱さが嘘のように消えてた。
このとき、その姿は老人へと変わり、髪の色も真白に変わっていたのだそうだ。
始祖龍が言った。
「周りの魔力を感じよ」
「ほんとうだ、魔力を感じられる」
大気中にある大量の魔力を感じられるようになっていた。
その後、その魔力を生命エネルギーに変換する方法を教えられた。
これを仙術という。
人は龍とちがい水分も必要なのだが、その補給方法は、簡単だった。
仙術を使えば、大気中の水分も補給できるとのだ。
これで、死ななくはなったが、腹は減ったらしい。
ときおり、雑草を食ったそうだ。
気功術を使えるようになってからは、森で獲物を獲ることもあった。
50年ほど経つと、腹が減ることも、なくなった。
「それじゃ、このクッキーは要らないね」
僕がそういうと、師匠は慌てたように言った。
「食べられなくなった訳じゃないぞ」
2人でクッキーを食べた後、話の続きをする。
気功術は、師匠が開発した戦闘スキル。
基礎は、仙術の大気操作だという。
離れた場所の敵に打撃を与える事も、できるのだそうだ。
最後に師匠は言った。
「坊主なら、龍の血など必要無かろう」
と。
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