第48話 不登校生の受け皿としての定時制高校

 定時制高校は、不登校生の受け皿としても機能してきた。

 いわゆる「広域型の通信制高校」が一般化する前の、しかし、古き良き時代の定時制高校の要素がいまだ残っていた時期。定時制高校は、勤労青少年だけでなく、全日制高校の受験に失敗した者(それ以前に学力が不足していた者も含む)や、小中学校を不登校で過ごした青少年たちの受け皿としての役割を徐々に強めていった。

 そんな時期のある定時制高校の卒業生の半生を描いた書であり、これは後に映画化もされている。


 あかね色の空を見たよ―5年間の不登校から立ち上がって 堂野博之 著

 高文研 1998年1月 刊行


 不登校が理解されなかった時代


 今でこそ不登校は普通に起こり得ることとして様々な対策がなされて久しいが、今から約40年、それこそ半世紀近く前、著者の小中学生の頃は、必ずしもそうではなかった。そのことをしっかり認識したうえで、この本を読んでいただきたい。

 もちろん、著者である堂野博之氏(以下「堂野氏」)の時代(実は私も同世代で、著者の出身高校である岡山県立烏城高等学校(以下単に「烏城」)の同窓生でもある)と現在はかなり状況が異なるからといっても、著者の経験は今なお、読み継がれるべき価値がなくなったわけではないことを、まずは述べておきたい。


 確かにこの作品のトーンは、堂野氏本人に対して理解を示さなかった者たちには厳しい。特に当時の小学校や中学校の、堂野氏がかかわった教師たちには。さらに、その追従者(言い過ぎかもしれんが、あえて言う)に対しては、冷ややかでさえある。

 その一方、烏城の先生方をはじめ堂野氏本人に理解を示してくれた人たちに対しては、そうではない。

 このように、敵味方はこの「物語」のなかでは、極めて明確である。

 そこを残念に思う向きもあるだろう(特に学校関係者)が、私に言わせれば、それは当時の不登校に追い込まれた子どもたちに対する致命的な理解不足・共感不足からくるものであり、極めて浅はかな見立てであると言わざるを得ない。それを、親や学校の教師らの視点も求めようなどというのは、要求過多も甚だしい。中途半端な「マクロの視点」をこの「作品」が持ち得ていたなら、ここまで社会に影響を与えられることもなく、また、問題解決のきっかけともなり得なかったであろう。

 特に学校に限らず、塾や家庭教師業その他、教育関係の仕事に就いている人には、このことを、声を大にして述べておきたい(これ以上は罵倒になるからこの話はこの辺りで~これでもかなり抑えて書いているつもりである)。


 本書を読んだのはもう20年以上前になるが、これまでの経緯を見ていて、確かに、堂野氏の経験とそれに基づく主張とそれに伴う社会問題が世上に理解されていく上での起爆剤になったということを痛感する次第である。

 当時私は、大検などの啓蒙に力を尽くしてこられた岡山県玉野市(当時)の真鍋照雄氏の知己を得て、不登校や高校中退問題に対する取組みに協力していた。そんな中、私は堂野氏のこの「作品」に巡り合ったのである。


 私は、3年次終了とともに大検合格による資格で岡山大学に現役合格し、烏城を中退した。それでも、同窓会では卒業生として扱っていただいている。実にありがたいことである。高校時代は学校の授業など無視して、自分自身の勉強を日々必死にしていただけにもかかわらず(当然仕事などする暇もなかった)。

 それにしても、「岡山県立烏城高等学校」という名の定時制高校は、実に懐が深い場所であった。私も卒業生(「もどき」がおこがましいけれども・・・)のひとりとして、つくづく感謝する次第である。そんな烏城の「懐の深さ」は、この「作品」上において、遺憾なく表現されている。


 堂野少年の辛い経験は、この「作品」を通して、社会からスポイルされた感を持つ青少年たちだけでなく、大人たちにも、さまざまな形でインパクトを与えた。それが証拠に、この「作品」は、映画化さえもされた。堂野氏のこの「作品」は、生き抜くための力を、今も、そしてこれからも、私たちに与え続けていくに違いない。


 2017年5月21日記事

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