第47話 躍進する「広域型の通信制高校」
通信制高校のすべて: 「いつでも、どこでも、だれでも」の学校
手島 純 編著 2017年5月刊行 彩流社
少子化の中、躍進する「広域型の通信制高校」の実像に迫る
私は通信制高校に通学した経験はない。
ただし、定時制高校に籍を置きつつ大検を活用して大学に進学しており、また、学習塾講師・家庭教師として不登校生や高校中退者のための活動、さらには通信制高校の生徒の学習指導にもかかわってきた者です。
私は職業柄、学習塾対象の学校説明会に出向くことが多い。そのエピソードからご紹介する。兵庫県のある私立高校の説明会では、毎年理事長自ら出席され、会の冒頭にあいさつをされるのだが、昨2017年に行われた説明会で、理事長はこう述べられた。
(兵庫)県全体として高校入学者数が減っている中、「県外の通信制高校」への進学者数が、1000名を超えました。
これは決して無視できる数字ではありません。先生方で、そのあたりの状況をご存知の方、ぜひお教えください。
この理事長の発言は、生き残りに必死になっている私立高校関係者の声を代弁していると言えよう。この件について私は、例年その後で行われる懇親会で、理事長にお話した。実際、そのような事態になる兆候はすでに十数年前から出ていて、通信制高校に通った生徒を何人か教えたことや、「県外の通信制高校」というくくり自体がいささか実態を示し切れていないようにも思うことなどを述べたのだが、非常に有意義な話になった。
翌2018年の説明会でも理事長はこの件について発言されたが、前年の「県外通信制」という表現を「広域型の通信制高校」という表現に切り替えておられた。
確かに、「広域型の通信制高校」という表現は、厳密には学校教育法はじめ法令上の言葉ではない。「広域通信制高校」という言葉はあるが、それはしかし、複数の都道府県を募集対象にしている通信制高校を指し、従来からある公立の通信制高校もこれに当てはまるものが少なからずあるが、これらは、ここで問題とする「通信制高校」とは、いささか異なると言わざるを得ない。
通信制高校は、今や、学校本体だけで維持されているわけではない。従来型の日曜日にスクーリングに通う、主として公立の通信制高校に加え、学校法人の経営する学校もあれば、かつて大検予備校であった第一学院のような株式会社立の通信制高校もあるし、高校卒業資格を得られる技能連携校、さらには通信制高校の業務を補完する協力校や生徒の日常の勉学をフォローするサポート校(学習塾や家庭教師会社なども参入している)やサテライト施設(大学受験予備校のビデオ講義受講を中心に据えている施設の通信制高校バージョンである)などもある。
これらを含めた概念として、理事長が「広域型の通信制高校」とくくられたのは、確かに、実態に合っている。
実際、そこまでを含めて「通信制高校」というくくりで分析しなければ、現在の通信制高校事情はもとより、10代の若者たちの姿を的確に分析することはできないであろう。
全日制高校が少子化で軒並み定員を減らし、定時制高校の在籍者はこの40年来漸減している中、「広域型の通信制高校」が全体として飛躍しているのは、なぜだろうか?
「広域型の通信制高校」は、入学者よりも卒業者のほうが多いのが相場。
なぜなら、全日制高校や定時制高校を中退した生徒たちの受け皿としての役割があるからである。それでも近年は、中学卒業後すぐに入学してくる生徒も激増しているわけである。
難関大学進学者数で他を圧倒するような進学校ならいざ知らず、中下位レベルの生徒を扱っている学校、とりわけ私立高校にとっては、もはや、無視できない存在となっている。
この手の「高校」には、毎日学校に通う必要は必ずしもない。従来の通信制高校のように日曜だけ学校に通うが、普段は一切通わない、という形でもない。
学校に行きたければ週5日通ってもいいし、1日かそこらでというなら、それでもよい。
学校側も、そのあたりは上手く生徒たちを導いている。通いたくなったらさらに通えばよいし、少し減らそうと思えばそれも可能だ。勉強だけでなく、スポーツなどのイベントも組まれていて、そのあたりは全日制や定時制の高校の「部活動」や「行事」と似ていなくもない。それはサポート校などでも同じ。
ただ、拠点校といわれる場所はというと、いかにも学校です、という建物ではなく、駅前のビルの一角のテナントの中であったり、普通の塾や家庭教師会社の事務所だったりもする。このような柔軟さは確かに利点だとは思うが、卒業要件を認定する上での「簡素化」が、文部科学省で問題になっていることもうかがわれる。
本書でもいくつかの生徒の事例が出てはいるが、共著の典型的な欠点もみられ、全体としての統一感に欠けるきらいがあるにはあるが、現在の通信制高校を中心とした若者たち、教育関係者たちの等身大の姿をみるには、大いに役立つ書である。
なお、通信制高校を具体的に検討している人においては、本書を読むよりもむしろ、具体的に通学可能な学校を探し、その資料を検討されたうえで学校に行って面談をされることが肝要です。
2018年8月6日付記事
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