第42話 草の根からの教育改革

 そんな中、高認制度や通信制高校はどう変わっていくのだろうか?


 高認こと高校卒業程度認定試験については、年2回の受験が可能になり、科目及び最終合格(免除も含む)の要件も緩和された。全日制高校在学者へも、高認受験資格が2004年より与えられた。休学かどうかも問われなくなった。高校の卒業要件となる単位の互換も可能になった。ただ、全科目合格しても高校の卒業要件まで達することはない。これはあくまでも「大学受験資格」を与えるための試験だからだ。

 今時、「高等学校卒業」程度の資格は誰もが持っている。何も大学受験資格を与えるだけのこの試験自体を難しくする必然性などない。

 この制度はおそらく、現在の形で推移していくだろう。

 ひょっとすると、近い将来「高認」は、全日制高校も含めて大学受験資格を付与するための試験へと変貌を遂げるかもしれない。大学に行くならこの試験に合格しないと、高卒資格はともかく大学受験(場合によっては専門学校も含めて)資格は得られない。そういう形で「勉強」しなければいけないというモチベーションを持たせるツールにするというのも、考えられることの一つであろう。

 もっともこの考えは、大検時代から、一部の識者が言っていたことではある。


 通信制高校については、確かにこの30年来で急速にその数と通学者を増やし、形態についても、従来型の主として公立高校に設置されている通信制過程のみならず、いわゆる「広域型の通信制高校」もまたその脚光を浴びているが、この流れを止めることはまずもって不可能であろう。

 ただし、サポート校に業務を丸投げするなど、いささか安易に単位を与えていることについても批判がなされており、それについての業務の適正化が問題となってはいる。だがそれとて、全日制高校のような「厳格化」の方向に進むとは思われない。

 もちろん然るべきレベルの適正化は要求されることにはなろうが、そうなればまた、そこに「ビジネスチャンス」を見出す「業者」が現れるであろう。


 18歳人口の激減に伴い、どの予備校も苦戦を余儀なくされているが、この通信制過程に関わる分野に関しては、当面の間、規模はそれほど大きくないかもしれないが、「ビジネスチャンス」の場となり続けるのではなかろうか。全日制高校にもすでに「単位制」の学校が出現し始めているが、この「単位制」という形式は、やがて、「進級、卒業」という概念を、後期中等教育の場である高等学校から駆逐していく日も、遠くないだろう。


 いずれにせよ、文部科学省の思惑通りに事が進むとは思えない。

 なぜなら、大検が脚光を浴びてこの方、通信制高校もまたこれほども隆盛を極めているのだが、この一連の流れは、当時の文部省の思惑であったと言えるだろうか?


 歴史をひも解けば、確かに、「上からの改革」によって動いたこともないではない。だが、「大検」という制度の活用、そして、通信制高校との併用、さらには広域型の通信制高校のここまでの興隆は、決して文部官僚らが意図したものではない。

 実態は、市井のほんの一部の知識人と教育業者やマスコミなどによって世上に広められたものであった。しかしながら、それがきっかけとなって、多くの悩める青少年やその家族を救ってきた。 

 これはまさに、「草の根からの教育改革」であった。

 これからも、このような「草の根からの改革」は、いつかまた、どこからか始まることだろう。それによって後世の青少年たちやその御家族の皆さんが、一人でも多く救われるのであれば、こんなにうれしいことはない。

 かつて大検を用いて大学に進んだ者としての、それが偽らざる本音である。

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